ロザマリーナ

外来野菜 vol.1

外来野菜 vol.1

ナス、アーティチョーク、カボチャ、オレンジが無いイタリア料理なんて考えられますか?ましてやトマトのないイタリア料理なんて不可能です。でもこれらの食材は全て外来種で、古代ローマ時代には無かったのです。

というわけで、しばらくは外来食材についてお話ししましょう。
イタリアの食材の流れを見ると

①紀元前8世紀の古代ギリシャ人の南イタリア移住と共にもたらされたもの
②9世紀からシチリアを占領したアラブ人が持ってきたもの
③コロンブスのアメリカ大陸発見によって、紹介されたもの

主なる食材は以上の出来事によって到着しました。もちろんゆっくりと隣村から大地を伝わって来た食材もありますが、現在のイタリア料理の土台となった食材の由来はこの三つ。
それらをランダムにご紹介したいと思います。
まずはこのところ、私が一番興味を持っている唐辛から。

唐辛子ペペロンチーノPeperoncino ①

和名が唐辛子・・・という事は「唐」から来た辛子でしょうか。いえ、それだけではなく「なんばん」という名前もあります。漢字の「南蛮」は室町時代末期から安土桃山時代の16世紀にやってきたポルトガル人などの事をさします。和食材の辞典によれば、唐辛子には豊臣秀吉の朝鮮出兵の時に持ってこられたといいう説もあります。おそらくその両方、つまり海路と陸路で到着したのでしょう。ではどこから・・・「南蛮」ですからポルトガル人から? でもポルトガルに到着するその前は?
そこで登場するのがコロンブス。

コロンブスはジェノヴァ人の冒険家。でも冒険をするにはパドロンが必要です。
1492年、スペインのイザベラ女王をパドロンとしたコロンブスがインドだと思ってたどり着いたのが南米でした。そこには未知の食材がたっぷり(その後のスペインの南米侵略はこのストーリーには関係ないので、ここでは食べ物の事だけ)ありました。
コロンブスは1492年8月から計4回南米に行っていますが、唐辛子の発見は最初の年の12月だといいます。

さあそこで何を思ったのか。多分「やったぜ!コショウの再来だ」と言ったのではないかしら。ヨーロッパでは育たないコショウは古代ローマ時代からインドから輸入されていて、非常に高価なスパイスでした。それに代わる物を持ってきたからには莫大な富を得ることが出来たはず。きっと初回の旅の後、スペインで相当な価格で売れたのでしょう。当然その次の旅では大量に持ってきたはず。しかし帰国後そこで見た現実は・・・・なにしろ唐辛子には種がある。種さえ蒔けばどこにでも生えるというわけで、すごくがっかりしたに違いありません。
この唐辛子、やがてイタリアにも到着し、コショウに似た辛さを持つこの食材につけた名前がペペロンチーノPeperoncino。コショウがペペPepeなので、そこから派生して「小さなコショウ」という意味です。

では種を蒔けばどこにでも生えるこの食材は、イタリアのどこを住処としたのでしょうか。どうも北部の人はあまりお好みではなかったらしく、もっぱら南イタリアのそれもかなり貧しい地方でした。塩さえなかなか買えない貧しい地方の料理はしまりのない味だったのでしょう。そこにピリッとした唐辛子が登場してたちまち人気者となっていきます。州名はカラブリアとバジリカータ、アブルッツォ。特にカラブリアには独自の唐辛子文化が広がります。以前「カラブリアは辛ブリアと書く」という文で始めた記事を書いたことがありますが、イタリアを知る人の間ではかなり受けてしまいました。

さて、その辛ブリアに育った唐辛子文化とはどのようなものだったのでしょうか。まずは塩の代わりに料理の味を引き締める。そして男性たちは「俺はここまで辛いものが食べられるんだ」と自慢したとか。なんだか江戸っ子が熱い湯にはいるのを自慢するのと似たような気もしないではない。

そしてサラミに練り込んだ「カラブリアサラミ」、肩ロースにまぶした「カピコッロ」、保存作用を利用して、シラスと合わせた「ロザマリーナ」、豚肉と合わせた「ンドゥーヤ」等の名品が生まれていきます。

それらについてはまた次回に。

カピコッロ
カピコッロ
ロザマリーナ

長本和子 NAGAMOTO Kazuko
イタリア料理研究家 劇団青年座在籍当時イタリアに魅せられ、イタリアのホテル学校に留学。その後料理通訳などを経て、プロ向けイタリア料理・ソムリエ現地研修を企画する会社を設立。卒業生は450人ほどになり、日本各地で活躍している。現在は料理を通してイタリア食文化を紹介している料理教室「マンマのイタリア食堂」主宰。日伊協会常務理事。「イタリア好き」に小説連載中。
まだイタリア料理が日本でそれほど知られていないころから、イタリアのほとんどの州を周り、食材の旅をしてきました。現在は料理教室「マンマのイタリア食堂」で、webセミナーリオを行い、郷土料理や食材の歴史や理論を語っています。

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