FOODEX JAPAN2022 イタリア館 レポート
コロナ影響下も海外パビリオン最大規模で開催、イタリア・チーズ・セミナーも盛況

去る2022年3月8日(火)〜11日(金)までの4日間、千葉・幕張の国際展示場「幕張メッセ」にて開催されたアジア最大級の食品・飲料総合展示会「FOODEX JAPAN2022」。世界各国の食材が集まる海外パビリオンでは、41の国・地域が集まりましたが、なかでもイタリア館は面積1640㎡、出展社数150社と海外パビリオン最大の規模での出展となりました。

【主催者インタビュー】

イタリア館をプロデュースするイタリア大使館貿易促進部の杉岡有希さん(消費財 食品・飲料部門 トレードアナリスト)に、今年のイタリア館の魅力や当日の状況についてお話しを伺いました。

●輸入事業者の割合が多く新規商談向きなフーデックス

フーデックスは他の展示会に比べて輸入を考えている来場者の割合が多い展示会だと把握しており、新規商談の場として適していると考えています。それもあって、イタリアからは毎年半数近くを初出展の生産者が占めているのも大きな特徴です。
フーデックスには30年以上出展していて、近年は毎年100社を超える生産者が出展しており、出展社数も面積も海外パビリオンではトップレベルの規模を誇っています。新型コロナウイルスの影響が大きかった昨年でも96社が出展しましたし、今年もまだ生産者の来日が難しい状況ながら150社が参加しています。
出展されている事業者は大手企業から夫婦2人で営んでいる小規模のファミリービジネスまで様々です。
ただ日本とビジネスをするにあたっては英語でのコミュニケーションは必須ですよとか、貿易に関する最低限の事務処理は必要になりますよといった基本的なことはイタリア側のエージェントに徹底させています。また我々もローマ本部で講習会を開いたりしていますので、スムースにビジネスをスタートさせやすいと思います。

●3つのブース展開で来日できない状況をサポート

22年のイタリア館は、スタンドエリア、ショールームエリア、イタリア産チーズ特設コーナーの3つに大きく分かれています。
すでに日本に代理店がある生産者についてはスタンドエリアで各代理店スタッフが案内します。初出展の生産者など、まだ日本に頼れるツテがない方でも製品紹介ができるように設けたのがショールームエリアで、今年は昨年の1.7倍となる69社の製品が並びました。各社の主力製品や案内パンフレットを陳列して、興味を持った事業者さまには試食用サンプルを提供。さらに商談希望の連絡をいただいた場合は、後日我々でオンライン商談会をセッティングさせていただくという形式で商談をバックアップしています。
イタリア産チーズ特設コーナーは2019年から取り組んでいる施策です。実に400種類以上もあるといわれるイタリア・チーズの認知度アップを目的にしていて、チーズの展示や専門家によるセミナーなどを行っています。残念なことに今年もチーズを使った料理の試食提供が難しいので、チーズそのものの試食に加え日本各地のリストランテのシェフや料理家の方にご協力いただき動画などでレシピを20近く展示してフォローアップしています。

●大規模出展はイタリアと日本の信頼の深さの証

毎年これだけの規模で出展できる理由として、イタリアの生産者の「日本市場への期待の大きさ」を物語っているのだと思います。それは市場の大きさというよりも、日本人の味覚の繊細さだったり、フレッシュな食材を多用するなどお互いの食文化に共通点があるといった親近感からくるもののように思います。
イタリアの生産者は皆「自分たちの製品がトップクオリティである」と自負するほど、自分たちの製品に対してプライドを持って取り組んでいます。多くのイタリアの事業者は、日本の顧客なら自分たちの品質の良さを理解してもらえると考えていて、やはりそれはイタリアの生産者と日本の料理人さん、輸入会社さんが実際に信頼関係を長年積み重ねてくださっているからこそだと思います。

「リストランテのシェフの方、輸入業者の方には、ぜひ新しい生産者の商品を採用していただきたいですね。そして、来年こそはまた生産者の皆さんに来日していただける環境が整うことを願うばかりです」と杉岡さんは今後の抱負を語りました。

【イタリア・チーズ・セミナー・レポート】

● 佐藤真一シェフがペコリーノ・チーズの魅力を紹介

イタリア館では「イタリア産チーズ 特設コーナー」を設け、展示だけでなくリストランテ・シェフやチーズ専門家によるセミナーを開催。取材した9日(水)には、東京・本郷のリストランテ「クリマ・ディ・トスカーナ」のオーナーシェフで日本イタリア料理協会(A.C.C.I.)実行委員でもある佐藤真一シェフによるミニセミナー「イタリアの三つの羊乳チーズ、ペコリーノ・ヴァリエーション」が開かれました。進行役は日本チーズアートフロマジェ協会の村瀬美幸さんというぜいたくなセミナーです。

観客は間隔を空けての参加となりましたが開始時には定員に達するほどの盛況ぶり。佐藤シェフは「マニアック・イタリアーノの世界へようこそ!」と笑顔で第一声。用意されたのは「ペコリーノ・ロマーノ」「ペコリーノ・トスカーノ」「ペコリーノ・サルド」の3種類。しかも熟成の浅いタイプと長期熟成させたものの食べ比べもできる贅沢な内容で「イタリア料理の業界にいる人でも、こんな機会はなかなかありません」と興奮気味にスタートさせました。

佐藤真一さん
1978年青森県生まれ。「クリマ・ディ・トスカーナ」オーナーシェフ、一般社団法人ソムリエ協会認定ソムリエ、一般社団法人日本イタリア料理協会(A.C.C.I.)実行委員。
高校卒業後、赤坂のイタリアンレストランを経て98年イタリアに渡る。「アンティカ オステリア デル ポンテ(2つ星)」、「ダル ペスカトーレ(三ツ星)」、「エノテカ ピンキオーリ (三ツ星)」など数々の名店で5年半の修行を積み、帰国。
2006年、東京・南青山のリストランテ「イル デジデリオ」のオープンと同時に総料理長に就任。その後、2017年12月、オーナーシェフ兼ソムリエとして「クリマ・ディ・トスカーナ」を東京・本郷にオープン。トスカーナ地方の料理とワインを軸に提供している。その傍ら、台湾での料理教室やイタリア料理の普及活動にも尽力しており、イタリア料理普及活動のひとつとして「日本イタリア料理協会(A.C.C.I.)」の実行委員を務める。


● 2000年の歴史を持つペコリーノ・チーズ

まずは、ペコリーノ・チーズの概要を解説。ペコリーノ・チーズとは羊=ペーコラの乳で作ったチーズのこと。牛の乳から作られる他のチーズと比べて、羊や山羊から作るチーズは鮮やかな白色が特徴です。その理由は牛はエサから接種した栄養素のカルテンを消化しきれないで乳に残ってしまうから。カルテンがチーズになったときにオレンジがかったクリーム色のもとになるとのことです。乳成分にカロテンが少ない羊や山羊のチーズは真っ白なので、チーズの色を見るだけで「これは羊か山羊のチーズだろう」と推測できます。
「羊は、春は若草、冬はワラといった具合に季節によって食べるエサが異なります。とうぜん乳に含まれる水分量や成分が変わるので、出来上がるチーズの味も香りが違ってきます」と佐藤シェフは解説し、季節感も楽しめるのもペコリーノ・チーズならではといえます。
また作り手のこだわりによっても違いが現れます。生産者ごとにめざしているチーズの味を実現するために乳脂成分を調整しますが、それは作り手によって異なるそうです。よりナチュラルな味をめざしているところでは乳脂成分を調整せずに作るところもあります。

● 産地ごとの味わいの違いを体験

続いて、今回用意された3種類それぞれの特徴を紹介。観客の手元にはすべてのチーズをのせたトレイが配られ、佐藤シェフの解説つきで、味わいの違いを確かめることができました。

ペコリーノ・ロマーノD.O.C.

かつてはローマ近郊でつくられてたペコリーノ・ロマーノですが、現在はサルディーニャ島が主な生産地。イタリア最古のチーズといわれており、発祥は2000年以上も前にさかのぼるといわれます。他のペコリーノに比べてしっかりとした塩味が特徴です。「ペコリーノ・ロマーノの誕生当時はローマ時代ですから、戦争が盛んに行われていたことでしょう。戦地へ遠征する兵士たちの栄養源として、保存性を高めるために塩味を強めにしていたとしても不思議ではありません」と佐藤シェフは歴史的な背景にも目を向けます。
熟成したタイプは粉チーズにしたり、スライスして料理にトッピングするという使い方が主流。「ペコリーノ・ロマーノはしょっぱくて食べづらいという声を聞くことが多いのですが、おいしいうま味が詰まった塩だと思ってください。味付けをするイメージで使うと手放せない万能調味料になりますよ」と佐藤シェフは意外な使用法を提案。

ペコリーノ・トスカーノD.O.C.

トスカーノ=トスカーナのペコリーノ・チーズは、比較的塩味が控えめで優しい味わいが特徴です。熟成期間によって1カ月未満を「ペコリーノ・トスカーノ・フレスコ」、6カ月くらいまでを「ペコリーノ・トスカーノ・スタジオナート」、6カ月を超えると「オーロ・アンティーク」と呼ばれるようになります。
一般的にチーズは熟成期間が違っても塩加減や乳脂分は同じなのですが、ペコリーノ・トスカーノは、フレスコ、スタジオナートと熟成タイプによって塩加減を変えていて、また乳脂分は無調整のまま使っています。フレスコはミルクの優しい味わいが引き立ちますし、他方、スタジオナートでは香ばしい風味とアミノ酸のうま味が増した濃醇な味が楽しめます。

ペコリーノ・サルドD.O.C.

サルド=サルディーニャ島で作られるペコリーノ・チーズは「なかなか日本では出回ってなく認知度も高くありませんが、その美味しさをたくさんの人に知って欲しい」と佐藤シェフ。フレッシュなタイプの「ペコリーノ・サルド・フレスコ」は、しっとりとなめらかでそのままでも食べやすい味。熟成タイプの「ペコリーノ・サルド・ドルチェ」は、パルミジャーノ・チーズにも劣らぬしっかりとしたアミノ酸、芳醇な甘さうま味が感じられます。「今回すごく状態の良いものが届きました」と佐藤シェフも絶賛で、とてもなめらかでうま味たっぷりでチーズだけでもおいしく食べられます。

●ペコリーノを堪能できる料理を紹介!

料理のデモンストレーションでは「ペコリーノ・トスカーノのラビオリ」を紹介。これは佐藤シェフがイタリア修行時代、トスカーナの「トラットリア・フィレンツェ」で作ったレシピだそうです。ペコリーノ・チーズと季節のフルーツを合わせるのがポイントで、チーズの甘みや塩味にフルーツの甘み香りといった季節感のアクセントが加わります。
残念ながら、感染防止の観点からライブ調理や試食は叶わず、事前に撮影した調理動画を見せながら解説する形式に。佐藤シェフはレシピ通りの解説だけでなく、工程のひとつひとつでさまざまなアレンジ提案を交えながら細やかに解説して、調理やおいしさのイメージが広がりました。
「今回はペコリーノ・トスカーノで作りましたが、どんなチーズでも応用が可能。ただペコリーノ・ロマーノだけで作ってしまうと塩辛くなってしまうので、やさしい味わいのチーズと組み合わせるのがおすすめです。好みのチーズを組み合わせてオリジナルのクワトロフォルマッジを作ってもいいでしょう」と佐藤シェフ。

ラビオリ以外の料理では、春夏のおすすめとしてソラマメやエダマメといった豆との組み合わせを推奨。イタイアでは生のソラマメにペコリーノ・チーズをたっぷりかけた料理が春の風物詩として親しまれているそうです。「日本のソラマメは品種が異なってエグ味があるので茹でてからのほうがお勧めです。その他にもエダマメやグリンピース、スナップエンドウなどいろいろな豆で楽しんで欲しい」と提案しました。
「先日、料理人仲間が集まってフランス、イタリアのいろいろなチーズでタコ焼きを楽しんだのですが、ペコリーノ・ロマーノは合いませんでした」というジョークでは観客から笑い声が。羊の香りが強烈に主張してしまったとか。他方、ペコリーノ・トスカーノやゴルゴンゾーラはなかなかのおいしさ」だったそうです。チーズ好きな方は試してみてはいかがでしょうか。

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