ローマの外国料理、特にユダヤ料理

ローマの外国料理、特にユダヤ料理

ローマを歩いていると、色々な言語が耳に飛び込んできます。ほんの少しは理解できるフランス語や英語は少なく、バングラデッシュ語やアラブ語など単語一つ聞き取れない言語ばかり。古代ローマも同じだったそうです。その中でひときは目立ったのがユダヤ人(古代の話です)。何しろ商売に長けていたので、下層労働者としてではなく実業家としての地位を築いていました。

目立つと叩かれるのが世の常ですが、古代ローマは多民族社会でそれなりに暮らしていました。ところがキリスト教の世の中となると情勢は一変。キリストがユダヤ人であるにもかかわらず、キリストを殺した民族として迫害が始まり、1500年代になるとゲットと呼ばれる居住地区に閉じ込められることになります。

ローマのゲットの横には「ユダヤ人は劣った民族だ」との文字を正面に掲げ、ユダヤ人の改宗を強要した教会まであるんですから、結構生々しい話です。

ユダヤ人に改宗を求める文章を表に掲げた教会
ユダヤ人に改宗を求める文章を表に掲げた教会

もっと生々しいのが、ユダヤ人収容所に連れていかれた人々の名前が真鍮に刻まれて、地面に埋めてあるんですよ。

ファシストに連れていかれた人々の名前
ファシストに連れていかれた人々の名前

さて、そのユダヤ人の歴史に残した現代の料理を知るには、ゲットに行ってみるのが一番です。

ユダヤ人の食には厳しい決まりがあって、「豚肉を食べてはいけない」「ヒレとうろこのない魚を食べてはいけない(これはイカ・タコ貝類も入ります)」「母の乳で子の肉を煮てはいけない(だから肉の入ったクリームシチューはダメ)」。しかも全てカシェールという認められた食材を使わなければならないのです(専門のお店が何軒かあります)。イタリアには豚肉を食べてはいけないユダヤ人のためにガチョウや牛などで作った加工肉があって、いまでは郷土食材になっているのも興味深い話です。

ゲットにはその規律を守ったリストランテがあります。行くと特徴的なユダヤ帽キッパをかぶった人たちが食事をしていて、ローマにユダヤ人がこんなにいるのだとちょっと驚きます。聞けば現在全土では3万、ローマにはその半分ほどが住んでいるそうです。

キッパをかぶって食事をする人たち
キッパをかぶって食事をする人

ここで絶対に食べたいのが「ユダヤ風揚げカルチョーフィ」。カルチョーフィを丸ごと一本揚げたもので、料理の単純さ、見た目の良さ、美味しさと三拍子そろった逸品です。

ユダヤ風揚げカルチョーフィ
ユダヤ風揚げカルチョーフィ

その次に紹介したいのが、お菓子屋さん「ボッチョーネ」。でも看板も何も出ていません。それでもいつも列が出来ています。さあ、どんなものがあるのか・・・あらトルタはみんな焦げている・・・薪窯で作っているんですって。電気やガスのオーブンだと微調整が出来るけれど、薪ではそうはいかない。却ってそれが特徴になっているようです。

買ったのはリコッタのトルタとアーモンドのトルタ。両方ともアマレーナ(野生のサクランボ)のジャムが入っています。これって、リコッタとアーモンドペーストだけだと味が単純になってしまうので、酸味のあるアマレーナを入れているのでしょう・・・結構高度です。

しかし、重い。普通のトルタだと思って手に取ると、どっしりとしてビックリします。さらに食べてみると皮が固い。通常のトルタのようにサクッとした軽さはなく、コキンと歯にあたる感じ。これって中世のドルチェそのままなんじゃないかしら。ドルチェは嗜好品だから、無骨な郷土料理から生まれても時代に合わせて菓子店が軽くしていきますからね。

でも噛みしめると、小麦の風味が広がる。・・・なんというか、骨太の本物の味。

かわいくきれいなドルチェに慣れていると最初は抵抗感がありますが、甘すぎず吟味した素材の味をじっくりと感じられる・・・癖になりそうな味です。

ユダヤの焼き菓子
ユダヤの焼き菓子

多くの民族が行き来するローマ、少し前までは中華料理屋をあちこちで見かけましたが、最近はスシやラーメン店が目立つようになりました。でもね、経営者のほとんどは以前中国料理店をやっていた中国人なので、その変わり身の早さと生き延びる力の凄さに驚きますが、これを和食と言ってほしくないな~というのが本音です。

そうそう、フランス料理店がローマには無いというのも面白い話です。


長本和子 NAGAMOTO Kazuko
イタリア料理研究家 劇団青年座在籍当時イタリアに魅せられ、イタリアのホテル学校に留学。その後料理通訳などを経て、プロ向けイタリア料理・ソムリエ現地研修を企画する会社を設立。卒業生は450人ほどになり、日本各地で活躍している。現在は料理を通してイタリア食文化を紹介している料理教室「マンマのイタリア食堂」主宰。日伊協会常務理事。「イタリア好き」に小説連載中。
まだイタリア料理が日本でそれほど知られていないころから、イタリアのほとんどの州を周り、食材の旅をしてきました。現在は料理教室「マンマのイタリア食堂」で、webセミナーリオを行い、郷土料理や食材の歴史や理論を語っています。

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