ホテル学校の周りはオリーヴ畑

ホテル学校の周りはオリーヴ畑

元々イタリア料理は好きでしたが、実際に学んだのはロンバルディアのホテル学校でした。15歳も年下の若者たちと一緒に学ぶのはなかなかエキサイティングな経験でした。イタリアのホテル学校は1960年代に旅行ブームが起きた時に、そこで働くプロを養成するために各地にできたそうです。調理・サービス・レセプションと科が分かれ、私が在籍したのは調理科で、今では考えられないことですが、当時はプロの基本はフランス料理だったので、セクションの名前もフランス語で書かれていました・・・その時代プロの世界ではフランス料理にコンプレックスを持っていたようです・・・。

場所はガルダ湖畔。下宿先の街ブレーシャからバスで小一時間、バス停を折りてから丘の中腹にあるホテル学校にはオリーヴの林を抜けていきました。近くには搾油所やオリーヴの木細工の工房もあり、学校帰りに散策するには最適な場所でした。その工房で買ったオリーヴの木の根っこの乳鉢は、ホテル学校での修了記念で宝物でしたが、経営していた店の引っ越しでいつの間にかなくなってしまい、今でも残念でたまりません。

オリーヴの木の根っこで作った乳鉢

オリーヴ油はイタリアのほとんどの州で栽培されていますが、歴史の流れから見るとやはり古代ギリシャ人の名残が色濃く残っている南イタリアで量産されています。イタリア全体の総生産量の80パーセント以上なので、かなりの量です。それでもオリーヴ栽培は北上し、イタリア全土に根付いて、今では土地ごとの文化が育っています。

オリーヴ油はイタリア料理の基本。北から南まであちこちの搾油所に行ったので、その時のことをご紹介しましょう。

プーリアに初めて行った時は、駅から目的地まで車で数時間ずっとオリーヴ畑だったので驚いたことがあります。到着した搾油所では石臼でオリーヴをすりつぶして、麻糸で作った円盤状の袋に詰め込み、それを搾汁機で圧を与えて絞っていました。よく見ると土台はあのパエストゥムにある古代ギリシャの物とうり二つ。あの時代に完成していたんですね。

昔の搾汁機

シチリアの歴史ある搾油所では、珍しいものを見ました。搾油所の一角に幅1メートル奥行2メートルほどの小部屋がいくつも並んでいるのです。聞いたら「小作人が自分たちの収穫した量で給料が支払われるので、この部屋は摘んだオリーヴを置いておいたのです」と。

トスカーナでは、貴族の末裔が個人でオリーヴ油を作ってる場所に行ったことがあります。そこでの作り方は、収穫したらしばらくスノコの上に置いて水分を飛ばしてから搾汁です。遠心分離機が無かった時代は、水分を除くのが大変だったのでしょうから、そこから出た知恵かもしれません。現在では、酸化させないために極力空気に触れないようにするので、とても考えられない方法ですが、このような試行錯誤の末に今の形が出来たのかしらとも思います。。

リグーリアに、収穫期に訪れた時も印象的でした。共同搾油所に近づくにつれてオリーヴ油のにおいがしてきて、目をつむっても場所が分かるほどでした。そこでは近くのファミリーが自分のオリーヴの木から収穫したものを持ってきて、一年分の量を絞ってもらうのだそうです。まさに生活に密着した景色を見せてもらいました。

一番驚いたのは、フリウリーヴェネツィア・ジューリアで行った搾油所です。普通オリーヴ油の北限はガルダ湖という事になっていますが、こちらはもっともっと北。大体果実が実るのかしら・・・行ったのはちょうど収穫期で、オリーヴを潮干狩りの時のような櫛でそぎ落とし、下に張った網で集めていました。実はちょっと小ぶりで、黒い点があったりして良いものだとは思えない・・・「なぜ条件の悪いところで栽培しているの」という質問にオーナーは「ここは昔オーストリア領。オーストリアから見れば南の地なので、オリーヴ油を作っていたの。イタリアに組み込まれたときには北になってしまい、南からオリーヴ油を持ってこられるので作る意味がなくなってしまったのよ」とのこと。彼女はリストランテの経営者で、店で使うためだけに栽培しているそうです。

イタリア各地の搾油所点描です。

フリウリーヴェネツィア・ジューリアのオリーヴ畑


長本和子 NAGAMOTO Kazuko
イタリア料理研究家 劇団青年座在籍当時イタリアに魅せられ、イタリアのホテル学校に留学。その後料理通訳などを経て、プロ向けイタリア料理・ソムリエ現地研修を企画する会社を設立。卒業生は450人ほどになり、日本各地で活躍している。現在は料理を通してイタリア食文化を紹介している料理教室「マンマのイタリア食堂」主宰。日伊協会常務理事。「イタリア好き」に小説連載中。
まだイタリア料理が日本でそれほど知られていないころから、イタリアのほとんどの州を周り、食材の旅をしてきました。現在は料理教室「マンマのイタリア食堂」で、webセミナーリオを行い、郷土料理や食材の歴史や理論を語っています。

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