イタリア料理の基礎は古代ギリシャ人が作った

イタリア料理の基礎は古代ギリシャ人が作った

イタリア料理の歴史は、紀元前8世紀に移住してきた古代ギリシャ人に始まります。もちろんそれ以前に住んでいた古代民族も、住んでいる土地に生える植物、手に入る肉や魚を火を使って調理していましたが、やはり当時最高の文明を持った古代ギリシャ人の食にかなうものはありません。

まだ私がイタリアの事をあまり知らなかった頃、南イタリアにギリシャ神殿がいくつもあることを知ってビックリ。最初に行ったのがカンパーニア州パエストゥムの遺跡でした。この巨大な石を積み重ねて、作った神殿。2500年前でしょう、どうやって???

その後パエストゥムには幾度か行ってみましたが、2019年はちょっと特別でした。なぜなら事前に見た写真の中にとんでもない物が写っていたからです。それは大理石でできた搾汁機の土台。四角く、絞った汁が溝にたまり、下で受けるはずの容器へと流れるようになっています。

どうも博物館にあるのではなく、遺跡の中にあるらしい。チケット売り場で写真を見せて聞いたら「あっちだよ」とアバウトな案内。そこは神殿の裏手にある居住地区で、家の境の石積みが続いている所でした。そして・・・ありました。片隅にポツンと。・・・こんなにすごいものが、2500年も雨ざらしになって置いてあったなんて。どんな石工が作ったんだろう。彫り込みのシャープさに驚きます。一緒にいたイタリアの友人が「和子、その上で踊りなさいよ」・・・踊っちゃいました。

「搾汁機の土台(パエストゥム)」

さて、この搾汁機の土台は何に使われていたのか。古代ギリシャ人が持って来たのがワインとオリーヴ油。おそらくその両方に使われていたのでしょう。それにこの形はつい最近まで使われていた物と全く同じなのです。という事は2500年前に既に完成されていたってことです。

「食材が伝わってきた」という事は、そのものがポンと届けられて記録に残っただけでは、伝わって来たとは言えません。例えばお米。お米は保存が出来るので、古代ローマの皇帝が食べたという記録が残っていますが、それはその時だけの話。伝わるというのは、栽培と利用がセットになっていなければなりません。お米の栽培が始まるのは、9世紀のアラブ人がシチリアでのこと。だからそれを「イタリアにお米が伝わった」と言えるわけです。

イタリア料理の始まりは古代ギリシャ人だと書いたのは、イタリア料理の基であるオリーヴ油、ワイン、パン、パスタ、アーモンドなどを持って来たからです。つまり運んできただけではなく移住してきたので、オリーヴ油なら栽培、搾汁、保存、そして料理全てを生活として持って来たわけです。

もちろんオリーヴの木は、地中海各地に自生していました。けれどその野生オリーヴの実は小さく、とても油を搾れる物ではありません。そこに古代ギリシャ人が、なんと接ぎ木の技術を持ってきて油用の大きな実を実らせ、そこからオリーヴ油を作っていたのです。

オリーヴ栽培の歴史がある南イタリアに行ってみると、根元の葉と上の葉が違うオリーヴを見ることがよくあります。あれは、野生オリーヴの木に大きな実のなる栽培種のオリーヴを接ぎ木したからなのです。実は接ぎ木の事は、古代ギリシャの叙事詩「オデュッセウス」も載っているんですよ。

オリーヴの木の根元には、接ぎ木の土台である野生種の葉が出ている(シチリア)

紀元前8世紀からイタリアで使われるようになったオリーヴ油。それがそのまま古代ローマ人に受け継がれます。2000年前のヴァスヴィオス火山の噴火によって当時の様子をそのまま残しているポンペイには、オリーヴをすりつぶす道具や搾り取る道具、そして保存しておくカメがそのまま残っています。このようにして作ったオリーヴ油は、料理、燈明、ボディローションなど多岐にわたって使われます。

ここからオリーヴ油は、イタリア料理の基本油脂となっていったわけです。

古代ローマ時代のオリーヴをすりつぶす道具(ポンペイの博物館)


長本和子 NAGAMOTO Kazuko
イタリア料理研究家 劇団青年座在籍当時イタリアに魅せられ、イタリアのホテル学校に留学。その後料理通訳などを経て、プロ向けイタリア料理・ソムリエ現地研修を企画する会社を設立。卒業生は450人ほどになり、日本各地で活躍している。現在は料理を通してイタリア食文化を紹介している料理教室「マンマのイタリア食堂」主宰。日伊協会常務理事。「イタリア好き」に小説連載中。
まだイタリア料理が日本でそれほど知られていないころから、イタリアのほとんどの州を周り、食材の旅をしてきました。現在は料理教室「マンマのイタリア食堂」で、webセミナーリオを行い、郷土料理や食材の歴史や理論を語っています。

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