エトルスキの3000年前の生活

エトルスキの3000年前の生活

「永遠の都ローマ」「水の都ヴェネツィア」そして花の都「フィレンツェ」。紀元前から続くローマや水上にあるヴェネツィアに、それぞれの冠言葉がかかるのは分かりますが、フィレンツェはなぜ花の都なのでしょうか。それはFirenzeの旧名がFiorenzaで、「花開いている」という意味のラテン語から出ているからです。
では「トスカーナ」はどうでしょうか。そこには古代に住んでいた民族の名前が絡んできます。民族とはアペニン山脈の南側からローマの中心を流れるテーヴェレ河の右岸(北側)までに住んでいたエトルリア人、イタリア語でエトルスキの事です。エトルスキがラテン語になってトゥスキ。トゥスキの土地でトゥスカーニア。そこからトスカーナという州名が生まれたとされています。

それでは、エトルリア人を知るために、出土品が沢山収集されているローマのヴィッラ・ジューリア博物館に行ってみましょう。
ここでの華は何と言っても石造りの夫婦の棺桶です。若くして亡くなった夫婦なのでしょうが、その像のすばらしさには目を奪われます。特に女性の衣装のドレープの美しさ、それに靴のデザインが、スポーツシューズのように紐がついていて今とそっくりなコト。
この二人の様子は、おそらく宴会に出ている時の姿なのでしょう。ローマやギリシャだと女性は宴会に出られなかったので、このように夫妻が一緒にいることからエトルリアでは女性の地位が高かったとされています。見ているだけで、大切にされていたことが伝わってきます。

エトルリアの若き夫婦のお棺
エトルリアの若き夫婦のお棺
エトルリアの若き夫婦のお棺

次に、食に関する物を探してみましょう。
私が喜びの声を上げたのは、スキを牛にひかせて畑を耕している像を見つけた時です。古代において一番大切な食料は穀類。野菜類だと季節が変わるとなくなってしまいますが、穀類なら乾燥させて一年は持ちます。古代民族の最大の課題は、いかに穀類を安定して収穫できるかということでした。この像って、この時代に既に穀類を耕作していた証拠なんですよ。という事は、パンもパスタも作ることが出来たという事じゃありませんか。これはエトルリア人の食を探るのに、素晴らしい手掛かりになります。
しかもこのスキの形はつい100年前まで、そっくり同じものが使われていました。ということは、もうこの時代に完成されていたという事。3000年近い昔の話です。凄いと思いませんか。

畑を耕す牛の像
畑を耕す牛の像

別の所には、穴あきレードルが飾ってあります。料理のアクをとったり、揚げ物に使っていたのでしょうか。いえいえ、これはワイン用の道具です。当時はビンなど無い時代ですからワインの劣化は早かった。そレを補うためにワインにハチミツやスパイスで味をつけて飲んでいたと言われています。この穴あきレードルは、スパイスなどを濾すために使われていたとか。
当時の食事は古代ギリシャ人と同じように、コの字型にベッドを三つ並べた上に寝そべって、会話を楽しみながらとっていました。その時には当然ワインも出ていて、このように濾して飲んでいたのです。

穴あきレードル
穴あきレードル

さらに、ここでしか見られない凄いものがあります。ホルモスと呼ばれる宴会用の容器の台座です。ちょうど人の高さに作ってあるので、追加ワインを注ぐのにぴったりです。もしかすると料理が入っていたのかもしれません。厨房から温かいまま持って来た料理をこの中に入れ、欲しい人の皿に盛り付ける。ただこの時代は手で食べていたのであまり熱いものはダメ。でも冷え切ったものよりも確かに美味しかったのでしょう。台座には空洞があるので、そこで火を焚けば保温にもなると思ってしまいます。

ホルモス
ホルモス

古代というと原始的という言葉と重なりますが、ことイタリアに関しては調べれば調べるほどその言葉が覆されます。


長本和子 NAGAMOTO Kazuko
イタリア料理研究家 劇団青年座在籍当時イタリアに魅せられ、イタリアのホテル学校に留学。その後料理通訳などを経て、プロ向けイタリア料理・ソムリエ現地研修を企画する会社を設立。卒業生は450人ほどになり、日本各地で活躍している。現在は料理を通してイタリア食文化を紹介している料理教室「マンマのイタリア食堂」主宰。日伊協会常務理事。「イタリア好き」に小説連載中。
まだイタリア料理が日本でそれほど知られていないころから、イタリアのほとんどの州を周り、食材の旅をしてきました。現在は料理教室「マンマのイタリア食堂」で、webセミナーリオを行い、郷土料理や食材の歴史や理論を語っています。

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