古代ローマ時代の魚の養殖場

古代ローマ時代の魚の養殖場

古代ローマ時代には「コマッキオ・ボルセーナ湖・ブラッチャーノ湖では、ウナギを養殖していた」「ターラントではカキの養殖が盛んだった」と、初めて聞いた時はビックリしました。当然、2000年も前にそんなことが出来るのだろうかと疑い、まず行って見たのがブラッチャーノ湖。養殖場の跡は見られませんでしたが、湖畔にはウナギという意味のアングイッラーラという地名があり、名物がウナギ料理。この地のウナギの歴史が古いことが分かります。

知るためには食べることとウナギ専門リストランテに入ってみたら、出てきたのはぶつ切りにしたトマトと煮込んだり、串焼きにしたりするかなり大胆な調理法の料理でした・・・一度でいいかな。

イタリア市場のウナギ
イタリア市場のウナギ

もう一つ、ウナギで有名な話がダンテの「神曲」の中にあります。煉獄編でダンテが出会うのが、ローマ法王のマルティーノ4世です。この法王、ボルセーナ湖のウナギが大好きでヴェルナッチャワインを使って料理させ、そのあまりの飽食ぶりにダンテから煉獄に落とされてしまったという次第です。

「ウナギのヴェルナッチャ風味」は現代もあり、香草類でソッフリットを作ってその中にぶつ切りのウナギを入れ、ヴェルナッチャワインを注いで煮たもの。法王が在位した1281~1285年には、もはや有名な料理だったようです。

ウナギ好きなマルティーノ4世
ウナギ好きなマルティーノ4世

調べていくうちに、古代ローマ人の養殖場はただ囲いを作ったのではなく、水を循環させる装置まであったとか。それに養殖していた魚も、ウナギだけではなくクロダイやスズキ、貝類まで多彩です。

さあ、こうなると本物の養殖場を見ないと気がすみません。そこで行ったのがローマから130キロほど南下したスペルロンガです。場所は「国立考古学博物館ティベリウスの洞窟」。ローマ皇帝ティベリウスが避暑地としていた洞窟があり、その前が何と魚の養殖場なのです。

到着するとまず博物館に入ります。そこには洞窟の中に飾られていた大理石彫刻が修復されて飾ってあります。きれいな立像ではなく、古代ギリシャの叙事詩・・・というか、大冒険活劇「オデユッセイア」の一シーン。オデュッセウスと一つ目の巨人ポリフェーモとの戦いです。酒を飲ませて眠らせ、その目を槍で突くところ。オデュッセウスは等身大にできているので、それに合わせてポリフェーモは巨大に作られています。しかし何と精巧なコト。筋肉の一つ一つが分かるようになっていて、今にも動き出しそうです。もう一つの彫刻は、かなりかけている部分がありますが、オデュッセウスの船を襲う魔女スキュラの姿です。そうそう魔女キルケの像もあります。足元には豚に変えられた手下たちが何匹か・・・ともかくこの間に立っていると、血沸き肉躍る物語に引き込まれるようになってしまいます。

オデュッセウスとポリフェーモ

さあ、今度は海沿いにある洞窟へと足を運びましょう。広い内部には途中まで水が引き込まれ、中は夏でもひんやりとしています。横には岩をけずった小部屋もあり、ティベリウスの時代には先ほどの彫刻が飾られていたのだとか。激務から逃れてこの地に来た皇帝ティベリウスを、彫刻たちはつかの間の夢の世界に連れて行ってくれたのでしょう。

ティベリウスの洞窟
ティベリウスの洞窟

そして目の前に広がるのが目的の魚の養殖場。いくつもの仕切りがあり、海の近くにあるので、どこかに海水を引き入れている所があるはずです。一部は干上がっていますが、洞窟の近くの生け簀では今でも魚が悠々と泳いでいます。この魚、確かボラでしたが、もしかすると古代ローマ時代のボラの子孫かもしれません。

それにしても、ここが2000年前に古代ローマ人が作った魚の養殖場・・・歴史の重さに、古代ローマ人の大きさに圧倒され、声も出ません。

古代ローマ時代の魚の養殖場
古代ローマ時代の魚の養殖場

1957年に発見され、博物館になったのは1963年。土地の人は存在を知っていたのでしょうが、イタリアにはローマ遺跡が多すぎて、価値あるものと思っていなかったのかしら。古代ローマの文化度の高さを知るために、ぜひ一度は訪れてほしい博物館です。


長本和子 NAGAMOTO Kazuko
イタリア料理研究家 劇団青年座在籍当時イタリアに魅せられ、イタリアのホテル学校に留学。その後料理通訳などを経て、プロ向けイタリア料理・ソムリエ現地研修を企画する会社を設立。卒業生は450人ほどになり、日本各地で活躍している。現在は料理を通してイタリア食文化を紹介している料理教室「マンマのイタリア食堂」主宰。日伊協会常務理事。「イタリア好き」に小説連載中。
まだイタリア料理が日本でそれほど知られていないころから、イタリアのほとんどの州を周り、食材の旅をしてきました。現在は料理教室「マンマのイタリア食堂」で、webセミナーリオを行い、郷土料理や食材の歴史や理論を語っています。

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