イタリア北部コモ湖畔レッコ県のカレンノで、近年小さな農家のグループが「イン・シトゥ」方式で古代品種のトウモロコシを種まきしました。ベルガモのトウモロコシ栽培研究グループの協力のもと、やっと実現したプロジェクトです。
イネ科の植物であるトウモロコシは、時とともに異なった環境や気候や地質に適応してきました。中央アメリカ原産の穀物で北アメリカと南アメリカに伝わった後、ポルトガルとスペインにも広がりました。イタリアに広まってからは、植物の遺伝子メカニズムの進化をもとに、地域ごとに栽培品種が発展しました。トウモロコシの遺伝子改良は、より優れた品種の選択による品種改良と、雑種強勢を利用した新しいハイブリッド品種の投入によって行われてきました。スカリオーロ・トウモロコシは改良された品種です。
カレンノのスカリオーロ・トウモロコシの企画と再生
レッコ県カレンノのスカリオーロ・トウモロコシは、丈夫で生産性の高い現代的なハイブリッド種に地位を奪われた地域原品種の例です。この品種はベルガモの研究グループが保存していた種によって蘇りました。山岳地帯のラリオ・東サン・マリーノ渓谷組合は、2009年にスカリオーロ・トウモロコシの「イン・シトゥ」つまり地域の原品種の再生と促進をサポートするプロジェクトをスタートしました。目的は、土着品種の種の再生とスカリオーロ・トウモロコシの研究です。まず全滅の危機にあったポレンタ用の土着品種トウモロコシの遺伝子を探し出して保存し、地産のトウモロコシの生物多様性「イン・シトゥ」をセレクトして保存しました。そしてカレンノ地域のスカリオーロ・トウモロコシ栽培の伝統を再生し、生産者や消費者、組合や市民の参加を呼びかけました。
カレンノのスカリオーロ・トウモロコシ、現在活動中のプロジェクト
このプロジェクトは、ベルガモのトウモロコシ栽培研究グループの遺伝子バンクから240粒のスカリオーロ・トウモロコシの種を譲り受けたことからスタートしました。このトウモロコシは、開花時期に品種が交わらないように他のトウモロコシから200m以上離れた畑に植え、収穫時に品種の特徴がもっとも引き出されるトウモロコシ品種が選ばれました。山岳地帯の組織ラリオ・東サン・マリーノ渓谷は資金を調達し、農業組合がこれを利用できるようにしました。次のステップは、パッケージや商標などのブランディングに取り組みながら収穫した穀粒の促進と加工食品の販売をすすめることで、「カレンノのスカリオーロ・トウモロコシ」のブランディングへの期待がかかっています。
山田 美知世
京都市出身。イタリア在住40年。月刊女性誌「amarena」の元編集長。現在も日本とイタリアの雑誌と本の取材、及び執筆活動を続ける。イタリアの国家試験オリーブオイル鑑定士試験に合格、資格を取得(イタリア共和国農林食料政策省オリーブオイル鑑定士登録番号 MI.0023278)。イタリア各地、ニューヨーク、東京、イスラエル、トルコの国際オリーブオイルコンテストの審査員を務める。イタリアでは新聞記者と共著の「ARTE DI SUSHI/寿司という芸術」「ラーメン」「日本の家庭料理」「日本酒と日本のスピリッツ」を出版。