「風間浦鮟鱇(かざまうらあんこう)」と「銀の鴨」
青森県産イチ押し食材で作る絶品フレンチ

三方を海に囲まれ、中央には平野が広がり、連なる山々が景観に雄大さを添える――。自然に恵まれた青森県で育まれた作物は、日本全国に運ばれて食卓を豊かに彩り続けています。そんな県産の豊富な食材のうち、今回は「風間浦鮟鱇」と「銀の鴨」を使い、実力派シェフの中村啓太郎さんが伝統的なフランス料理を紹介してくれます。

「青森 風間浦産活〆鮟鱇のスープ・ド・ポワソン パイ包み焼き」。香ばしくサクサクに焼き上げたパイ生地の下から顔を出すのは熱々の鮟鱇スープ。青森県産黒にんにくの酸味と甘味をきかせたアイオリソースを添えて提供。

風間浦鮟鱇の最大の特長は
「活〆」による抜群の鮮度

青森県を代表する水産物のひとつである「風間浦鮟鱇」は、生きたまま水揚げされた後、「活〆」されるため、鮮度の落ち方がゆるやかで、臭みの発生も抑制されるという特長があります。また、「銀の鴨(バルバリー種)」は豊かな自然でのびのびと飼養。濃厚な味わいと、上品な風味があり、赤みの色合いも深く、東北地方はもとより日本各地の料理人たちに評価されています。

これらを用いて垂涎のフランス料理を仕上げるのは、東京・銀座の一角で、多彩なメニューを展開する「ヴァプール」のシェフ、中村啓太郎さんです。聞けば、中村シェフは青森県の出身。「食」を通じて青森県の素晴らしさを広めたいと、故郷の食材を積極的に使い続けているそうです。

専門はフランス料理ですが、イタリア料理やスペイン料理なども器用にこなしてゲストを唸らせる中村シェフ。そのため、味にうるさいプロの料理人の中にも、「ヴァプール」ファンは多いと聞きます。

中村啓太郎さん/1979年、青森県生まれ。調理師免許を持ち喫茶店を経営していた母親の影響で料理への関心を抱きつつ成長。デザイン系の大学に進んだが、アルバイトで働いた飲食店で料理への思いが本格化し、そのまま就職する。その後、フランス料理店での5年間の修業を経て、飲食店を多店舗展開する企業に入社。2016年には、「ヴァプール」のシェフに就任し、系列店の立ち上げやリニューアルにも尽力する。

青森県は日本海、太平洋、津軽海峡に囲まれた豊かな漁場でもあることから、中村シェフは魚の下処理にも慣れていて、鮟鱇なども難なくさばいて見せます。今回は風間浦鮟鱇を使って、「青森 風間浦産活〆鮟鱇のスープ・ド・ポワソン パイ包み焼き」を披露してくれました。

「鮟鱇は小さい頃から馴染みのある使い慣れた食材なんですが、風間浦鮟鱇を取り寄せたのは今回が初めて。すごく鮮度がよくて驚きました。おそらく活〆しているせいでしょう。包丁を入れると身がプルプルとして弾力がすごい。肝も大きくてボリュームたっぷりです」

中村シェフはこう語ると、前日に下処理しておいた鮟鱇を取り出して調理に取り掛かりました。鮟鱇のスープ・ド・ポワソンのパイ包み焼きは、「ヴァプール」の人気メニューのひとつで、鮟鱇の身だけでなく、内臓や骨、皮など、すべての部位を無駄なく使い切ります。

1 約10kgの鮟鱇は「ちょうど扱いやすい大きさで鮮度も抜群」と中村シェフ。淡白で繊細な味わいの鮟鱇の身はスープ・ド・ポワソンの具に。
2 鮟鱇の肝の一部もスープの具として使用。
3 骨や皮から出汁を取ってスープのベースに。
4 骨や皮などの周囲の身も外し、胃袋や卵巣などもスープの具にする。

「骨や皮からとったスープに香味野菜を入れて煮たら、それを濾し、トマトペーストやアメリケーヌソース(オマールエビなどを煮込んで作るソース)のほか、鮟鱇の身や内臓などを煮込んで濃厚なスープを仕上げます。これを器に入れたらパイ生地で覆ってオーブンへ。パイ生地がきつね色に焼き上がれば、南仏の郷土料理の完成です」(中村シェフ・以下同)

料理の工程を経るごとに、どんどんフランス料理の味わいへと変化していきますが、鮟鱇の持ち味を活かすことも大切にしています。それは、「コリコリ」「プリプリ」「ふんわり」「ねっとり」など、鮟鱇のさまざまな部位を使い切ることで生まれる食感の多彩さです。

鮟鱇の骨や皮からとったスープに、ニンジンやセロリのほか、ローリエ、クローブなど、魚と相性のいい野菜やハーブを入れて煮込んでいく。沸騰後、30分ほど煮たら、濾す。
濾したスープに、トマトペースト、アメリケーヌソース、サフランなどを入れて加熱したら、さらに鮟鱇の身や内臓、肝などを入れて煮込む。これを器に入れて(上)パイ包みにし、200℃のオーブンで10分ほど焼く。

「風間浦鮟鱇を使った別のメニューも考えています。たとえば、部位によって異なる食感の楽しさを活かしてテリーヌなども面白いかなと。本来は豚肉に脂や頭部のゼラチン質などを混ぜ込んで作る料理ですが、これを鮟鱇で表現すると違った味わいが楽しめると思うんですね」

こうした発想が飛び出すのは、中村シェフがシャルキュトリにも精通しているからで、「ヴァプール」のメニューには、20種以上のソーセージほか、パテやテリーヌ、リエットなどが並びます。

国産鴨肉のイメージを大きく変える
味も色合いも深い青森県産の銀の鴨

中村シェフは、青森県産の「銀の鴨(バルバリー種)」についても、「赤身の味わいが濃く、ほどよく鉄分も感じられて非常に滋味深い」と評価。また、これまでに使ってきた国産の鴨より肉の色も深いといいます。

「赤身肉の色素と風味、そして旨味――いずれもジビエかと思われるほどに野性味豊かですから、メイン食材としておすすめです」

今回はこの鴨肉を「青森 新郷村銀の鴨のバロティーヌ ビーツとフランボワーズのソース」に。バロティーヌとは、開いた肉にファルス(詰めもの)を巻き込んだフランス料理です。

「ファルスとして使ったのは、鴨の端肉に、少量の豚肉とレバー、レーズン、ピスタチオなどを混ぜたもの。豚肉の脂などが鴨の旨味を生かしつつ、全体的にコクのある味わいにしてくれるのです」

「国産の鴨肉の色は、フランス産に比べて白っぽいというイメージだったのですが、今回、青森から届いた鴨は色が濃い。国産の鴨に対する印象が大きく変わりました」と中村シェフ。
胸とももの部分をひらいて平らにしたら、全体的に伸ばすようにファルスをのせる。これを巻いて成形したものをじっくりと蒸し上げる。

さらに中村シェフは、日頃からサステナブルについても徹底していて、極力、食材から捨てる部分を出さないようにも努めています。豚肉や鴨の端肉などをファルスにすることで、コクがプラスされるだけでなく、食材を捨てずに済むのです。

「野菜使いにもサステナブルを意識しています。たとえば白菜は芯の部分も捨てずに蒸して添えています。シャキシャキとした食感がチコリのようにおいしく、鴨肉ともよく合います」

実はこうして無駄なく使っている野菜も青森県県産。白菜の芯のほか、ノコギリソウやビーツの葉などは色合いや形にもインパクトがあり、このひと皿をより完成度の高いものにしています。

「風間浦鮟鱇と銀の鴨以外にもメイン食材になり得るものが青森県には多く、そのひとつがチーズ。香りがよく自然な甘味があって、丁寧に作られていることがよくわかります。今考えているのはカチョカヴァロのステーキ。ほどよくグリルして、焼き野菜と合わせたら、ワインにもピッタリの人気メニューになりそうですよ」

「ヴァプール」では、近々、青森県の食材をメニューに取り入れた「青森フェア」を開催する予定です。コロナ禍で自由に旅行が楽しめない今、青森の味が堪能できる「味の旅」に癒されてみてはいかがでしょうか。

「青森 新郷村銀の鴨のバロティーヌ ビーツとフランボワーズのソース」。旨味が凝縮した鴨肉の味わいを引き立てるのは、鴨の出汁にビーツやフランボワーズを合わせたソース。付け合わせの野菜も青森県産。

ヴァプール
東京都中央区銀座8-3 東京高速道路西土橋ビル1F
TEL 03-3571-8878
月~木17:00〜翌3:00(2:00LO)、金17:00〜翌5:00(4:00LO)、
土15:00〜翌3:00(2:00LO)、日15:00〜翌1:00(0:00LO)
無休
https://classic-inc.jp/vapeur/

問い合わせ先
〇風間浦鮟鱇
http://www.kazamaura.com/
〇銀の鴨
農事組合法人銀の鴨 http://ginnokamo.com/
○ハーブ
(有)みどりの里 http://midori-no-sato.net/index.html
○チーズ
(株)LOCO・SIKI  https://www.loco-siki.co.jp/

取材・文/上村久留美 撮影/依田佳子