生産者が精魂込めた青森県産の食材を
絶妙の調理法で仕上げるイタリア料理

「アルマ」の佐藤正光シェフは宮城県出身。東北産の食材の良さ、その根底にある生産者の熱意まで理解する料理人のひとりです。生産者との連絡を密に、オリジナリティ溢れるイタリア料理を彼らとともに作り上げるという意識を大切にしています。そんなシェフが青森県の選りすぐりの食材で作り上げるイタリア料理。その完成度の高さに注目です。

「青森 風間浦産鮟鱇のラグーソースのリングイネ その肝のテリーヌ」。鮟鱇のさまざまな部位を使った力強い味わいパスタソースには太めの麺がよく合う。ポートワインでマリネした肝のテリーヌを添えて。

「東北イタリアン」を名乗る名店のこだわり
手間を惜しまず「風間浦鮟鱇かざまうらあんこう」の持ち味を徹底的に活かす

恵比寿駅近くにあるモダンな雰囲気の「アルマ」は、オープンキッチンが印象的な人気のイタリア料理店です。シェフの佐藤正光さんは宮城県出身。日頃から宮城県をはじめとする東北食材をふんだんに使い、イタリアの郷土色を大切にしながらもオリジナリティ溢れる料理を提供し続けています。自ら「東北イタリアン」を名乗って日本の良さをゲストたちに伝える――「アルマ」はそんな個性的なお店です。

オープンキッチンの一番目立つ場所に炭焼き台があり、1年中、赤々と炭が燃えているのもこの店の個性といえるでしょう。人気メニューに、旬の貝が堪能できる「東北貝の盛り合わせ」があり、浜焼き感覚で貝を炭火で焼いて出すことも。このメニューを楽しみに訪れるゲストにとっては、店内で揺れる炎もまたご馳走のひとつなのです。

オープンキッチンが開放的な「アルマ」の店内。写真左手に炭焼き台がある。佐藤シェフは鮟鱇の解体もこのオープンキッチンで手早くこなす。
オープンキッチンが開放的な「アルマ」の店内。写真左手に炭焼き台がある。佐藤シェフは鮟鱇の解体もこのオープンキッチンで手早くこなす。

開催予定の「青森フェア」のために、佐藤シェフが選んだ青森県産の食材は、風間浦鮟鱇、銀の鴨(バルバリー種)、そしてみどりの里のハーブ、青森県産のチーズです。

「鮟鱇を使ったパスタは、オープン当初から当店の人気メニューのひとつで、鮟鱇を丸ごと使ってラグーソースを作り、リングイネと合わせています。

青森県産の鮟鱇を使ったのは初めてなのですが、何より鮮度の良さに感心しました。鮮度が味に大きく関係するのはもちろんですが、下処理の段階でも鮮度は重要。鮮度が落ちて身の締まりが悪くなってしまうと、さばく際の処理が大変だったりするんです。これほど良い状態で届くのは、生産者の方々の努力の賜物ですね」

シェフのこの言葉通り、風間浦鮟鱇は、水揚げされるとストレスを軽減するために水槽の中で1日休ませてから活〆にされます。活〆後、ただちに胃の内容物と腸を取り除いて洗浄するのも、鮮度の低下や臭みを抑えるための重要な工程です。

鮮度抜群、風間浦鮟鱇の引き締まった身。佐藤シェフは今後のメニューとして、身をマリネして生ハムでくるんで焼く「サルティンボッカ」なども考えているそうだ。

パスタソースのベースとなる出汁は鮟鱇の骨から取り、具材としては、鮟鱇の「七つ道具」と呼ばれる、身、水袋(胃袋)、とも(ひれ)、えら、皮、肝、ぬの(卵巣)などを余すことなく使います。

「ただし、肝についてはソースに混ぜるのではなく、ソースとは別に調理したものを皿の脇に添えて提供しています。その都度、パスタやソースに絡めながら食べていただくほうがおいしいので、そのようなサーブの仕方にしています」

加熱した鮟鱇の具を濾さずにそのままラグーソースに仕立てるのも佐藤流。胃袋のコリコリした食感や皮のゼラチン質などが、ソースをコク深いものにしてくれるのです。

鮟鱇の肝は、掃除をしてから1日塩漬けにして水分を抜く。これをポートワインで1時間半ほどマリネし、1時間ほどかけて蒸し上げる。仕上げの皿に添える時には、クミンやコリアンダーなどのスパイスをかける。
ラグーソースは、鮟鱇の骨から取った出汁に、皮、内臓、身のほか、香味野菜や生ハムなどを加えて作る。フライパンにオリーブオイル、ニンニク、唐辛子を入れて加熱。ここに作り置きしておいたラグーソース、トマトピュレ、鶏と野菜のスープを加えて味をととのえる。
ラグーソースにゆで上がった麺を入れる。「今回は乾麺を使用しましたが、もちろん手打ち麺もおいしい。アルマでも手打ち麺はよく用います」と佐藤シェフ。

「いろいろな食感が楽しめる力強いラグーソースには、太めの平たいパスタが合います。今回は乾麺のリングイネを合わせることにしました」

このパスタ料理の主役は、何といっても鮮度抜群の風間浦鮟鱇ですが、佐藤シェフは青森県産のハーブのクオリティの高さにも驚いたといいます。

「ラグーソースを煮込む際に、ローズマリー、タイム、レモングラスなどを使いましたが、いずれもしっかりとした香りで、届いてから2週間経ってもフレッシュさが損なわれないんです。ハーブのような食材がこれだけ長持ちするというのは、料理人にとってありがたいことです」

ストレスなく飼養させている青森県産の銀の鴨は
ジビエに近い風味が魅力的

風間浦鮟鱇やハーブ同様、青森県産の銀の鴨(バルバリー種)にも生産者の思いが込められています。たとえば、鴨たちができるだけストレスを感じることなく快適に過ごせるよう、鴨舎内では十分な空間が確保され、太陽光や自然の風も可能な限り取り入れて飼養されています。飼料も国産の穀類を中心として、その日の健康状態や気温、湿度等を見極めながら配合と給餌量を適宜変更しているそうです。

こうした生産者の熱意と努力の結晶ともいえる青森県産の銀の鴨を実際に調理してみて、ジビエにも詳しい佐藤シェフは、こんなふうに評価してくれました。

「ほどよく野性的な香りがあって、ジビエに近い風味がいいですね。また濃い肉色は、肉好きのゲストの食欲をそそることでしょう」

青森県産の銀の鴨は、採卵、孵化、飼育、食鳥処理までを一貫して行うことで高い品質を保持している。

佐藤シェフは、「この鴨肉の色合いやジビエに近い味わいを活かしたい」と、炭火でじっくり焼いて調理することにしました。ただし、胸肉はそのまま火にかけたのに対し、もも肉はコンフィにしてやわらかく仕上げてから皮目をパリッと焼き上げました。

「異なる部位のおいしさをふさわしい調理法で表現したいと思ったんです」と語るシェフの火入れは実に繊細。まるで火加減の難しい魚を焼くように、丁寧な火入れで旨味を引き出していきます。

鴨を炭火で焼く場合は、「脂が多いのでフライパンで少し脂を落とすように焼いてから(上)、炭にかけるといいですよ」と佐藤シェフ。コンフィにしたもも肉も、炭火で表面をパリッと仕上げてから提供する。
「青森産銀の鴨の炭火焼きとコンフィ その出汁と発酵山ぶどうのソース」。香ばしく仕上げた鴨肉に添えたのは、鴨の骨から取った出汁に赤ワインと発酵した山ぶどうのピュレを合わせた甘酸っぱいソース。

「青森県には、ほかにも魅力的な食材がたくさんあります。たとえば、現在、チーズを用いたメニューを考案中。特に注目しているのは、でき立てで届くフレッシュミルク モッツァレラで、クリーミーな舌触りと香りがたまりません。カプレーゼ感覚でフルーツサラダにしたらおいしいと思います。青森産のフルーツと組み合わせてもいいですね」

生産者に寄り添い、食材の魅力を十二分に引き出し続けてきたシェフの手によって、これからも数多くの食材が輝き、ゲストたちを楽しませることでしょう。

佐藤正光さん/1988年、宮城県生まれ。調理師専門学校卒業後、1年半ほど日本料理店で修業して和食の基礎を学ぶ。その後、イタリア料理に魅せられて方向転換。仙台のイタリアンレストランで腕を磨いた後、「アルマ」へ。2018年より料理長を務める。

アルマ
東京都渋谷区東3-15-6百百代ビル1F
TEL 03-5468-5737
11:30〜15:00 (14:00LO)
17:30〜22:00(21:00LO)
土日祝11:30〜21:00 (20:00LO)※15:00にディナーメニューに切り替え
https://classic-inc.jp/alma/index.html

問い合わせ先
〇風間浦鮟鱇
http://www.kazamaura.com/
〇銀の鴨
農事組合法人銀の鴨 http://ginnokamo.com/
○ハーブ
(有)みどりの里 http://midori-no-sato.net/index.html
○チーズ
(株)LOCO・SIKI  https://www.loco-siki.co.jp/

取材・文/上村久留美 撮影/依田佳子