ローマ近郊ガエータの伝統ティエッラ

中に具の詰まった手で食べるピザ「ティエッラ」は、ラツィオ州ガエータの伝統的なストリート・フードです。

イタリアには、オーブン皿を意味する「ティエッラ」と言う名前のついた料理が多数あります。アブルッツォ州、カンパーニャ州、プーリア州にみられ、同じ名がついていますがそれぞれに全く違う料理です。材料ばかりでなく、料理の伝統も異なります。いずれの場合も特徴は調理に使うオーブン皿で、フォカッチャやピザ、またはお菓子を焼くために使用する丸くて底が平たく浅いオーブン皿、つまりティエッラを使います。ここではラティーナ県ガエータの伝統的なティエッラについてご紹介します。

シンプルで豊かな味わいの、「ティエッラ・ディ・ガエータ」

イタリア伝統食材のリストに名を連ねるガエータのティエッラは、薄い2枚の円形のピザ生地の間に具を入れ、周囲を指で押さえてとじたピザ式フォカッチャです。指で押さえて閉じた部分が独特の波形になっています。中には調理した野菜やシーフードを詰めます。今日ティエッラの種類は沢山ありますが、伝統的なタイプはごくわずかです。その昔ティエッラには、エンダイブにオリーブとタコ、または玉ねぎと鱈を入れて作っていました。ティエッラは家庭内で即席に作れる簡単な料理のため、有り合わせの食材で作られていました。シンプルで立ったままでも食べられて、持ち運びしやすい料理です。「ストリート・フード」のブームが到来して以来、ガエータのティエッラも見直されつつあります。

さまざまな具材に用いられる「ガエータのオリーブ」

具の中に伝統的な特産の食材がひとつあります。塩水につけた「ガエータのオリーブ」です。地産の原品種イトラーナ種オリーブのことで、紫がかった色、酸味と独特の苦み味が特徴です。収穫時期は遅く、1か月真水につけて苦みを取ってから5か月間塩水に漬け込む独特の加工方法で、香り豊かに仕上がります。ティエッラの具にはこのオリーブの他にも「スパニョレット」と呼ばれる地産品種のトマトがよく利用されます。普通のトマトより厚みが薄く、小さめで、ニンニクのように櫛形で大変美味しいトマトです。


山田 美知世
京都市出身。イタリア在住40年。月刊女性誌「amarena」の元編集長。現在も日本とイタリアの雑誌と本の取材、及び執筆活動を続ける。イタリアの国家試験オリーブオイル鑑定士試験に合格、資格を取得(イタリア共和国農林食料政策省オリーブオイル鑑定士登録番号 MI.0023278)。イタリア各地、ニューヨーク、東京、イスラエル、トルコの国際オリーブオイルコンテストの審査員を務める。イタリアでは新聞記者と共著の「ARTE DI SUSHI/寿司という芸術」「ラーメン」「日本の家庭料理」「日本酒と日本のスピリッツ」を出版。