トスカーナの海を感じる砂浜の蜂蜜

トスカーナ州ヴェルシリア海岸では、菊科の植物ヘリクリサムの芳香成分による独特な香りの蜂蜜が収穫されます。環境保護にも力を注ぐ小さな組合イル・カムッチョロに所属する養蜂家たちが生産しています。

   「砂浜の蜂蜜」は養蜂家パトリーツィオ・カストリーナが20年以上前、花が豊かに咲き誇るヴェルシリア海岸に感嘆して誕生させました。この蜂蜜は、濃い黄色で非常に強い香りの植物ヘリクリサムの蜜を集める蜂から採取しています。日当りの良い乾燥した砂地に育つ、地中海灌木地帯の典型的な植物です。砂浜の蜂蜜の栽培場所として最初に選ばれたのは、トッレ・デル・ラーゴのレッチォーナでした。試作は州立公園の支持のもと、トスカーナ州蜂蜜組合の指揮で行われました。充分な量を収穫できる年とそうでない年がありながらも、品質においてはとても良い結果が得られました。時間の経過とともに蜜蜂の巣により適した場所が見つかり新たな生産者も加わりましたが、大量生産にはつながらず希少産物になっています。

砂浜の蜂蜜の特徴

「砂浜の蜂蜜」は強い芳香と独特の味わいが特徴です。これはヘリクリサムの豊かな芳香成分によるのですが、それだけではありません。蜂はギョウリュウ、ワタスギ菊、ユッカ、キリン草のほか、典型的な地中海灌木地帯の植物であるエニシダ、木苺、半日花などの蜜も採取します。つぶつぶの食感があり、複数の花から採取されるイタリア国内で唯一の蜂蜜です。芳香成分を含む油分には薬用効果もあり、抗炎症効果や抗ウイルス効果があることが検証されています。採蜜したばかりの蜜は琥珀色の液体ですが、ブドウ糖が果糖よりも多いために温度が下がると結晶化するのが特徴です。

カムッチョロ組合

2000年に組織された、ヘリクリサムの地元の名であるイル・カムッチョロを名のる組合は、わずかな公害からも蜜蜂を守るために、蜂の巣を砂浜近くに移動させました。カムッチョロの組合員は今日の養蜂業にたいへんな注意を払っており、さまざまな蜂の病気を防ぐためにも、バイオテクノロジーを利用しています。また他の花からの影響を受けないように、この蜂蜜を作る蜂の巣を移動しないことにしています。


山田 美知世
京都市出身。イタリア在住40年。月刊女性誌「amarena」の元編集長。現在も日本とイタリアの雑誌と本の取材、及び執筆活動を続ける。イタリアの国家試験オリーブオイル鑑定士試験に合格、資格を取得(イタリア共和国農林食料政策省オリーブオイル鑑定士登録番号 MI.0023278)。イタリア各地、ニューヨーク、東京、イスラエル、トルコの国際オリーブオイルコンテストの審査員を務める。イタリアでは新聞記者と共著の「ARTE DI SUSHI/寿司という芸術」「ラーメン」「日本の家庭料理」「日本酒と日本のスピリッツ」を出版。