福岡の食フェア、「スーツァンレストラン 陳」で開催中
福岡県の食材で魅せる
中国料理の美味なる世界

中国料理の重鎮、陳建一さんの技術とセンスを受け継ぎつつ、自らの瑞々しい感性によってオリジナリティー溢れる料理を展開する「スーツァンレストラン 陳」の井上和豊料理長。次代を担う料理人として注目される料理長が手掛ける「福岡の食フェア」が今、食通たちの関心を集めています。

博多春菊の生産者を訪ねた井上料理長。「アクが少なくてやわらかいので生のままでも食べられるし、福岡県がラーメンのために開発したラー麦を使った麺と合わせてもおもしろいかもしれませんね」と食材を前にするといろいろな発想が生まれる。
「博多春菊」の生産者を訪ねた井上料理長。「アクが少なくてやわらかいので生のままでも食べられるし、福岡県がラーメンのために開発した『ラー麦』を使った麺と合わせてもおもしろいかもしれませんね」と食材を前にするといろいろな発想が生まれる。

本場の中国料理ならではの力強さと素朴さを敬いながらも、東京という場所に合わせた新感覚の料理を追求し続ける井上料理長。その姿勢は、中国料理というジャンルを超えて注目されています。
井上さんは、目まぐるしく変わる料理の世界において、
「たしかにスピードも大切でしょうが、それだけではダメだと思うんですね。お客さまが何を求めているかを考えつつ、自らのペースも大切にして時には自分の足元を見つめる―—結果的には、そういう姿勢がお客さまを楽しませる料理につながっていくのだと思います」と言います。
その一環として、地方の生産者や彼らが創りだす食材に目を向けることを心掛けている井上さん。忙しい仕事の合間を縫って日本各地に足を運び、さまざまな食材にふれることをライフワークとしているのです。
そんな井上さんは、今、自ら料理長を務める「スーツァンレストラン 陳」で「福岡の食フェア」を開催中。「福岡県の豊かな自然と熱意ある生産者が支える食の世界を楽しんでほしい」とフェアにかける思いを語ってくれました。

キノコ、地どり、ヤリイカなど、
それぞれの個性を活かした料理を考案

井上料理長が、今回のフェアに選んだ福岡県の食材は、「王リンギ」「はかた地どり」「一本槍」「ラー麦麺」の4種で、いずれも個性的な食材です。
たとえば、「王リンギ」はアワビに似た食感のキノコで、「はかた地どり」はジューシーで歯切れのよい食感が特徴の地どり。そして、「一本槍」が玄界灘で水揚げされる長さ15㎝以上の釣ヤリイカなら、「ラー麦麺」は福岡県がラーメン用小麦として開発したオリジナル品種のラー麦で作った麺です。
「それぞれの特徴を活かしたいと思うとさまざまな発想が浮かびます。たとえば、『王リンギ』はコリコリした食感を活かし、ジューシーな豚ヒレ肉と合わせて、塩味の炒めものにしました。また『王リンギ』は白いキノコなので、料理全体のイメージをやさしく繊細にしたいという場合にも使えると思います」

豚ヒレ肉は、塩、コショウ、酒、卵、片栗粉などで下味をつけておく。豚ヒレ肉、黄ニラ、王リンギは、さっと油通ししてから炒め合わせ、塩、コショウ、酒、チキンスープなどであっさりとした風味に仕上げる。

「福岡県産王リンギと黄ニラの塩味炒め」
王リンギ、黄ニラ、豚肉のそれぞれに異なる食感が楽しめるひと皿。「加熱しても食感が失われなところが王リンギのよいところですね」と井上さん。

また「はかた地どり」については、しっかりとした肉質で旨味も強い点が気に入ったという井上さん。四川料理独特の辛味をきかせた調理にも負けない力強さが感じられたということです。
「客さまには、『はかた地どり』のしっかりした肉質を堪能していただきたいので、これを用いた『しっとりと茹で上げたはかた地どりの豆鼓ソース』については、いつもより少し濃い目に下味を入れています。こうすることで、かむほどに肉の旨味が口の中で広がるという感覚を楽しんでいただけると思います。
中国料理では、鶏の皮まで見せる料理が多いので、皮付きのまま届く『はかた地どり』は、広く活用できますね」

はかた地どり(中抜き)はたっぷりの湯で50分ほど茹でた後、粗熱が取れたら骨を抜いてバラす。これをチキンスープに醤油やオイスターソースを加えた調味液の中に浸して下味をつける。
「しっとりと茹で上げたはかた地どりの豆鼓ソース」
はかた地どりに合わせるのは、ハナビラタケ、シイタケ、ナメコ、マツタケ、やなぎマツタケなどのたっぷりのキノコ。豆鼓ソースが全体をまとめて、はかた地とりの旨味を引き立てる。

濃い目の味に仕上げる料理がある一方で、塩味などをできるだけ抑え、あえてやさしい味わいに仕立てるものも。
「コース料理に組み込んだスープなどにはそうした配慮をよくします。味の濃いものや辛い料理だけではお客さまが疲れてしまうし、コース料理としてのバランスもよくないと思うので、やさしい味わいの料理をはさんで、お客さまにひと息入れていただくんです。
たとえば、今回、ご提供している『一本槍のおぼろ豆腐仕立て~中華コンソメの蒸しスープで』などは、そうした条件を満たしているスープといえるでしょう。
ベースとなっているのが淡白ながらも味わい深いシャンタンですから、『一本槍』本来のおいしさも感じていただけると思います」

「一本槍のおぼろ豆腐仕立て~中華コンソメの蒸しスープで」
スープのベースには中華のコンソメとされるシャンタンを使用。すっきり澄んだやさしい味わいのスープに、一本槍のほのかな甘味と旨味を活かしたフワフワのムースが浮かぶ。

野菜、くだもの、そしてお茶――
福岡県には魅力的な食材がほかにもたくさん

「今回のフェアでは麺好きのお客さまのために、『ラー麦麺』を使った麺料理も用意しています。ラー麦とは福岡県がラーメンのために開発した小麦の名称ということで、それを用いた『ラー麦麺』を試食してみてなるほどと思いました。モチモチとした食感で、さまざまなスープやソースとのからみもいいんです。
フェアでは、チャーシュータンメンにしたり、発酵唐辛子とドライトマト醤で和えたりして、お客さまに喜んでいただいています」

ラー麦を使ったラー麦麺の製造過程を見学。「ラーメン用の麺だけでなく、ラー麦を使ったパスタ麺も開発しました。半生タイプにもかかわらず常温で3か月間保存できるのが特徴です」と説明するのは(株)福山の代表・福山博志さん。

福岡県産の食材については、このほかにも愛用しているものがあり、たとえば「八女茶」もそのひとつ。
「豊かな香りと甘味、そしてきれいな色も出るので、『八女茶』のパウダーを蒸しパンに練り込んで翡翠色のパンに仕上げることもあります。またうちの店では山椒のオイルもよく作るのですが、その際も『八女茶』のパウダーを入れるときれいな緑色になるので重宝しています。今回は色を活かした『八女茶とあまおうのデザート』を提供します」
今回のフェアでは生産時期が合わずに使うことができませんでしたが、福岡県のオリジナル品種の柿として人気の「秋王」も井上シェフが認める食材です。 「アルコールを飛ばしたアンズ酒などと合わせると、香りがよくて見た目ににも美しく存在感のあるデザートになります」

「秋王」の人気の理由は、高い糖度とサクサクとした軽やかな食感にある。また種がほとんどないので食べやすく調理もしやすい。
秋王の人気の理由は、高い糖度とサクサクとした軽やかな食感にある。また種がほとんどないので食べやすく調理もしやすい。
「秋王」の人気の理由は、高い糖度とサクサクとした軽やかな食感にある。また種がほとんどないので食べやすく調理もしやすい。

福岡県のおいしさが詰まった「スーツァンレストラン 陳」の「福岡県の食フェア」。井上料理長ならではの美味なる食の世界を味わうことができるでしょう。

井上和豊さん

井上 和豊 さん

1981年、秋田県生まれ。2001年、四川飯店に入社し、2017年には「szechwan restaurant 陳」渋谷店の料理長に就任。「青年調理士第4回デザート部門」で銅賞を受賞、「RED U-35」でグランプリ「レッドエッグ」を受賞するなど、数々のコンクールでその実力を認められる。

szechwan restaurant 陳 東京都渋谷区桜丘町26-1 セルリアンタワー東急ホテル 2F TEL 03-3463-4001 11:30~15:00(14:00LO) 17:30~22:00(21:00LO) 水休

szechwan restaurant 陳

東京都渋谷区桜丘町26-1
セルリアンタワー東急ホテル 2F
TEL 03-3463-4001
11:30~15:00(14:00LO)
17:30~22:00(21:00LO)
水休

取材・文/上村久留美 撮影/依田佳子、濱田陽守