サン・ロック蒸溜所のジェネピー

ジェネピーは独特の風りとまろやかな味わいが特徴のアルプスの香草を使ったヴァッレ・ダオスタ特産のリキュールで、サン・ロック蒸留所の代表的な製品です。

2世紀におよぶ長い歴史

   サン・ロック蒸留所の歴史は1700年代に遡り、ソンドリオのカンポドルチーノ村で蒸留酒を生産していたレーヴィ家の歴史と関わりがあります。しかしアンジェロ・レーヴィと子息グリエルモがアオスタ州のサントルソに移ったのは1800年代も終わるころでした。この地で今も継承されるグラッパ・サントルソなど、多くの蒸留酒が誕生しました。1968年グリエルモの末娘ナタリア・レーヴィが夫チェーザレ・ロゼットとともに、ジェネピーやジェネピー・ブラン(ホワイト・ジェネピー)を始めとする120種の酒類を生産販売するサン・ロック蒸留所を設立しました。

ジェネピー・アルテミジアとジェネピー・アルテミジア・ブラン

ヴァッレ・ダオスタを語るとき、リキュールと同じ名前の原料である香草「ジェネピー」について語らずにはいられません。ジェネピーは、標高1450m以上に生息するヨモギ属の一種です。サン・ロックのジェネピー・アルテメジア・クラシコは、ジェネピーをアルコールに6か月間浸し、金色となった液体に水と砂糖を加えて作ります。リキュールはデコレーション用の植物とともにボトリングします。ジェネピー・アルテメジア・ブランは、密封した容器の中でアルコールの上にジェネピを並べた網をぶら下げて作ります。アルコールは、気化する過程で香りの成分だけを抽出するため、リキュールは植物の香りを吸収しながらも透明に仕上がります。

ジェネピー・アルテメジアの特性と相性

古代から伝わる処方箋で作られるジェネピーは、消化を助けるアルコール度数42度のリキュールです。標高の高い山に生息する芳香植物の繊細な香りが感じられ、強い味わいが長く残ります。ジェネピー・アルテメジア・ブランも同じような味わいですが、瓶の中に植物の入っていないタイプは草の香りがほとんどありません。そのままでもゆっくり味わえる美味しい酒ですが、ジェネピー、ジンジャーエール、氷で作るカクテル「ジェネルエール」にも用いられます。ジェネピー・サン・ロック蒸留所は、お酒に弱くてもスイーツとして楽しめるジェネピーとチョコレートを合わせた「バーチョ(キス)」を作りました。チョコレートのシュークリームのビロードのような甘さと、ジェネピー・アルテメジアの香りが一つになったリキュールです。


山田 美知世
京都市出身。イタリア在住40年。月刊女性誌「amarena」の元編集長。現在も日本とイタリアの雑誌と本の取材、及び執筆活動を続ける。イタリアの国家試験オリーブオイル鑑定士試験に合格、資格を取得(イタリア共和国農林食料政策省オリーブオイル鑑定士登録番号 MI.0023278)。イタリア各地、ニューヨーク、東京、イスラエル、トルコの国際オリーブオイルコンテストの審査員を務める。イタリアでは新聞記者と共著の「ARTE DI SUSHI/寿司という芸術」「ラーメン」「日本の家庭料理」「日本酒と日本のスピリッツ」を出版。