青森県と聞いて、リンゴやにんにくを思い浮かべる人は多いのではないでしょうか。ところが、青森県にはそのほかにも、魚介、肉、野菜や果物など、美味しいものがたくさん。しかも、新しいものが次々に開発されている食材の宝庫なのです。まだあまり知られていない陸奥湾産ムール貝や馬肉なども上質で、新たな食材を求めて県に視察に訪れたシェフたちを唸らせました。今回の青森フェアで絶品イタリアンを提供している「Alter Ego」の平山秀仁さんも、そんなシェフのひとりです。
ヘルシーでクセのない美味しさの馬肉は
新感覚のブルスケッタに
「今年の夏、青森県にお邪魔したのですが、初めて知る食材の中にはインスピレーションを与えてくれたものも多く、とても刺激になりました。季節を変えて、また訪れてみたい魅力的な場所ですね」
こう語るのは、東京・神保町にあるイタリアンレストラン「Alter Ego」の平山秀仁さん。イタリアの郷土の味を尊重しつつ、イノベーティブな味への追求にも熱心なトップシェフです。「Alter Ego」のテーマのひとつに、日本の食材を使って独自のイタリア料理を展開するということがありますが、今回の青森視察では、そのヒントに恵まれたと平山シェフは言います。
「現地ではいろいろな食材との出会いがありましたから、今回のフェアでは、お客さまに楽しんでいただくと同時に、僕自身もまた新たな挑戦を楽しんでいます」
そんなシェフがフェアのメイン食材として選んだのが馬肉と陸奥湾産ムール貝です。
「馬肉はクセがなく旨味もあるので、タルタルにしてブルスケッタにしようと決めました。僕は20代で渡伊し、ピエモンテ州のレストランで修業しましたが、そこで大人気だったメニューのひとつにブルスケッタがありました。ですから、毎日、大量の肉をブルスケッタ用にカットした、そんなことを思い出したんですね。イタリアでは牛肉を使いましたが、青森県産の馬肉を使うことで、美味しいのはもちろん、ヘルシーなブルスケッタにできると思いました」
ひと工夫したのは、馬肉に合わせるソースで、今回はバーニャカウダーを選択。
「これは、イタリアでの修業時代、まかないでよく食べた組み合わせです。ものすごく美味しいのに、なぜかレストランでは提供されなかった。そこで今回のフェアに取り入れて、お客さまにひと味違うブルスケッタを楽しんでもらおうと思いました」
今回は馬肉を生で提供していますが、現地ではみそ仕立ての鍋をいただき、これも印象深かったと平山シェフ。 「馬肉は加熱したら身がしまってかたくなるのでは――と思ったのですが、まったくそんなことはなくて、しっとり、美味しくいただきました。馬肉のよさを活かす調理法は、ほかにもいろいろありそうですね」
旨味と塩味の強い陸奥湾産ムール貝は
シンプルな味つけでクロケッタに
平山シェフを惹きつけた食材がもうひとつ。それが、大ぶりの陸奥湾産ムール貝です。その大きさと旨味の強さ、弾力ある食感に驚いたと言います。
「獲れる場所の海水の影響で塩味が強いため、現地の方たちは『ゆでて食べる』とおっしゃってましたが、僕はその塩味も活かしたかったので、まずワイン蒸しに。そして、身はジャガイモと合わせて揚げてクロケッタに。蒸した際に出たジュは、生クリームやコショウなどと合わせて泡のソースにしました。
陸奥湾産のムール貝のよさを活かしたひと品に仕上がったので、白ワインなとど一緒に味わっていただけたらと嬉しいですね」
ムール貝について、イタリアでは蒸して食べるのが一般的なので、「揚げるという発想はなかった」と平山シェフ。クロケッタで提供するのは、今回が初めての試みということになりますが、その発想はどこから?
「生産者さんや現地の方々との会話からヒントを得ました。みなさん、ムール貝をよく揚げ物にして召し上がるとのことだったので。
その意味で、『陸奥湾産ムール貝のクロケッタ』は、イタリア料理の技法と日本の食材に、青森県の食習慣が融合した料理といえますね」
平山シェフのやわらかな感性が活きるイタリア料理を厳選されたワインとともに。イタリア通のグルメにも発見の多いディナーになりそうです。
平山秀仁さん
1986年、栃木県生まれ。東京の調理師学校を卒業後、「リストランテ・ヒロ」で修業。28歳で渡伊。ピエモンテ州アルバ郊外のレストランや、世界が注目する料理人・徳吉洋二氏が率いるミラノの「Ristorante TOKUYOSHI」などで腕を振るった。帰国後、徳吉氏がオーナーを務める「Alter Ego」へ。2019年のオープン当初からシェフを務める。
Alter Ego(アルテレーゴ)
東京都千代田区神田神保町2-2-32
TEL 03-6380-9390
18:00~、20:30~
日休
https://alterego.tokyo/
問い合わせ先
青森県農林水産部食ブランド・流通推進課
TEL 017-734-9573
取材・文/上村久留美 撮影/依田佳子