「スーツァンレストラン陳」で青森フェア開催中
名店の技と次代を担う料理人の感性で
素材の個性を活かしつつ上質なレスランの味にまとめ上げる

青森フェアのひと皿、「青い森紅(くれない)サーモンの麻辣醤和え はつ恋ぐりんの酸味のアクセント」。カリっと揚がった春巻きの中身は、青森県産のサーモン「青い森紅サーモン」と青リンゴの「はつ恋ぐりん」、トマトを小さな角切りにしたもの。

中国料理界の重鎮、陳建一さんに実力を認められ、「スーツァンレストラン 陳」渋谷店の料理長を任されている井上和豊さんは、食材へのこだわりから生産地を自らの足でまわり、気に入った食材があれば、それを使ったフェアなども頻繁に行っています。今回の青森フェアでも、オリジナリティー溢れる料理でゲストを楽しませています。

長いもを餅のようにアレンジするなど
ゲストを楽しませる工夫も

日本の中国料理界の担い手として才能を評価され、20代からさまざまなコンクールで入賞を果たしてきた井上和豊さん。卓抜した中国料理の技に、自らの感性を合わせた料理には定評があります。
そんな井上さんが料理長を務める「スーツァンレストラン 陳」では、たびたび日本各地の食材を使ったフェアを企画し、現在、開かれているのが青森県に注目したフェアです。
「青森県の食材を用いたフェアは、これまで何度か手掛けてきました。今回は、四川料理らしく辛味をきかせたもののほか、サラダ感覚の春巻きや、長いもをフライパンの中でこねるように加熱して餅のような食感に仕上げる料理など、少し変わったものもメニューに取り入れています」

今回のフェアで井上料理長が選んだ青森県産の食材。
「青い森紅サーモン」は上品な脂ののりで、ほとんど臭みもないため、生食から加熱調理まで幅広く使える。
青い果皮の「はつ恋ぐりん」の特徴は強い酸味。「糖度も高いので生で食べると甘酸っぱさが味わえるし、ジュースやジャム、デザートの材料にも適している」と井上料理長。
青い果皮の「はつ恋ぐりん」の特徴は強い酸味。「糖度も高いので生で食べると甘酸っぱさが味わえるし、ジュースやジャム、デザートの材料にも適している」と井上料理長。
農薬、化学肥料ともに50%減の特別有機栽培による「ちからいも」は、粘りが強く旨味もたっぷり。
農薬、化学肥料ともに50%減の特別有機栽培による「ちからいも」は、粘りが強く旨味もたっぷり。

井上料理長が、まず調理に取りかかったのが、「青い森紅サーモンの麻辣醤和え はつ恋ぐりんの酸味のアクセント」。
「青い森紅サーモン」は、徹底した環境管理のもと、澄んだ水で大切に育てられているサーモン。控えめな脂ののりによるさっぱりとした食味が特徴とされ、現地視察では井上料理長もそれを実感したと言います。
「この料理をひと言で説明するなら、サーモンとリンゴを使った春巻きです。ただ、普通の春巻きのように”餡”を包んで揚げるというのではなく、サーモンやリンゴ、トマトの”タルタル”を春巻きの皮でくるんでさっと揚げたという感じ。タルタルは生でも食べられるので、春巻きの皮に火が通ったら完成。いつもの春巻きとは異なるフレッシュな風味を楽しんでいただけると思います」と井上料理長。
たしかに、「青い森紅サーモン」のほどよい脂に、「はつ恋ぐりん」の酸味が調和して、生春巻きのような軽さも感じさせてくれます。

「青い森紅サーモンの麻辣醤和え はつ恋ぐりんの酸味のアクセント」の調理方法。
①「青い森紅サーモン」(軽く塩をふる)、「はつ恋ぐりん」、トマトは、それぞれ小さな角切りに。② ①にマヨネーズ、麻辣醤、カレー粉などを入れて和える。③ 春巻きの皮の上にハーブと②を適量のせて、ふんわり巻いて閉じる。④ 低温でじっくり揚げ、最後に高温にして引き上げる。

「長いもの『ちからいも』についても、ちょっと変わった調理法を取り入れています。僕がお邪魔した農家さんでは、4年間かけて育てた『ちからいも』を出荷していて、試食してみると非常に弾力があって凝縮した味わいでした。そのまま揚げたり蒸したり、あるいは紹興酒漬けなどにしてもおいしいのですが、今回はすりおろして卵と合わせ、フライパンの中でお餅をつくようにして粘りを出したものを野菜と一緒に唐辛子炒めにしました。
『ちからいも』の粘りを強調することで、肉を加えなくても食べ応えがあり、野菜が主役のお料理として楽しんでいただけると思います」

「ちからいもの発酵唐辛子炒め」。すりおろした「ちからいも」に卵を入れて混ぜたら、少量の油を入れたフライパンの中で、叩いたり、こねたりするように熱して粘りを出す。粘りが出たら、油通ししたセロリやキュウリ、戻したキクラゲなどと炒め合わせる。味付けや仕上げに用いるのは、合わせ調味料(酒、甘酒、砂糖、酢、醤油など)、発酵唐辛子、ラー油、チキンスープ、刻みニンニク、刻みショウガ、刻みネギ、水溶き片栗粉、ゴマ油など。

フライパンの中でこねるように加熱した「ちからいも」の楽しみ方はほかにもあって、たとえばこれを筒状に成形して冷蔵庫に一晩おくとかたまるので、それを適当な大きさにカットして鍋に入れると餅のような食感が楽しめるそうです。

素揚げと煮込みの2段階の調理法で
骨からも地鶏の旨味を引き出す

井上料理長は、四川料理独特の辛味を活かした料理も用意してくれました。それが、「花椒とニンニク香る青森シャモロックの唐辛子炒め」です。
「『青森シャモロック』は肉質がしっかりしていて骨からもよい出汁が出るので、今回は骨付きのまま油で揚げ、それを煮込むという調理法を選びました」

「花椒とニンニク香る青森シャモロックの唐辛子炒め」の主な材料は、「青森シャモロック」(骨付きのままカットして、塩、コショウ、酒、醬油で下味をつける)、青唐辛子、万願寺唐辛子、山椒(生と乾燥の2種類)、ニンニク(蒸しておく)など。

下味をつけた「青森シャモロック」と、蒸したニンニクは、それぞれ素揚げにしておく。油を熱した鍋に山椒を入れて香りが立ったら、万願寺唐辛子と青唐辛子、素揚げにしたニンニクと「青森シャモロック」を入れて合わせる。ここに塩、砂糖、チキンスープなどを入れて煮込み、辛味ソースや鶏油、ゴマ油などを加えて仕上げる。

油で揚げることで肉の表面がザラつくので、これをそのまま煮込むとタレがからみやすくなります。「青森シャモロック」の旨味を引き出しつつ、短時間で味をからめる、時短の調理法ともいえます。
「また、『青森シャモロック』には地鶏特有の力強い味わいもあるので、山椒と合わせても負けません。鶏肉の旨味と山椒の辛味が引き立て合って、食べ応えのあるパンチのきいたひと皿に仕上がっていると思います。
この唐辛子炒めのもとになる料理は、たっぷりの青唐辛子に肉に合わせて調理するのですが、そこは『青森シャモロック』を主役にしたかったので、万願寺唐辛子と青唐辛子をミックスして少し辛味を軽減しています。
でも、四川料理の個性は大切にしたかったので、生の山椒と乾燥した山椒、この2種類の山椒を使う点は変えていません。
口に含むと最初に唐辛子や山椒の辛味がきますが、かみしめるほどに地鶏の奥深いおいしさを堪能していただけると思います」

「花椒とニンニク香る青森シャモロックの唐辛子炒め」。「青森シャモロック」の旨味とほどよい辛味が調和。中国ではウサギの肉を用いて作ることが多いそうだ。

フェアの3品は、味わいも印象もまったく異なる力作です。青森県産の食材がいずれも上質で個性的なので、「レシピを考える中で、新しいアイデアやアレンジが生まれた」とのこと。「ちからいも」のように、これからもずっと使いたいと思える食材がまたひとつ増えたとも言います。

フェアだからこそ味わえる、地方食材の魅力と一流料理人の技との融合を体験してみませんか。

井上和豊さん

1981年、秋田県生まれ。2001年、四川飯店に入社し、2017年には「szechwan restaurant 陳」渋谷店の料理長に就任。「青年調理士第4回デザート部門」で銅賞を受賞、「RED U-35」でグランプリ「レッドエッグ」を受賞するなど、数々のコンクールで実力を発揮。2023年には「東京都優良調理師」に選ばれる。

szechwan restaurant 陳
東京都渋谷区桜丘町26-1
セルリアンタワー東急ホテル 2F
TEL 03-3463-4001
11:30~15:00(14:00LO)
17:30~22:00(21:00LO)
水休

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問い合わせ先
青森県農林水産部総合販売戦略課
TEL 017-734-9573

取材・文/上村久留美 撮影/依田佳子