福岡の食フェア、「スリオラ」で開催中
福岡県イチ押しの食材をこう活かす
二つ星シェフによるモダンスパニッシュ

スペイン料理の名店「スリオラ」では、昨年末に続き、第2回目の「福岡の食フェア」を開催中です。前回のフェアでは、「天然クエ」と「元気つくし」(米)、「秋王」(柿)などを用いて洗練された料理を提供した本多誠一シェフ。「特鮮 本鰆」と「あまおう」を使った今回のお皿にも、シェフ独特の感性とオリジナリティーが活かされ、多くのゲストを楽しませています。

「マリネした福岡県産鰆の炭焼き、カキのクレーマとチョリソーで炒めたブロッコリー」は、「特鮮 本鰆」の持ち味を活かしたフェアのひと皿。

スペイン料理、フランス料理、日本料理など
多角的な視点で食材を見つめ、活かす

「福岡県産の食材については、以前から『鶏肉が上質でおいしい』という印象はあったのですが、改めてこうしてフェアを行い、さらにそのための視察を体験してみると、ほかにも優れた食材があることに気づきました。今回のフェアには、そうした私の気づき、また新たな挑戦なども盛り込んでいますので、その点も含めて楽しんでいいただけたらと思います」
こう語るのは、スペイン料理店「スリオラ」のオーナーで、ミシュラン二つ星を維持し続けるシェフとしても注目される本多誠一さんです。
興味深い食材や生産者の情報を耳にすると、「どんなに忙しくても、できるだけ時間を作って現地に行くようにしています。そのへんのフットワークは軽いほうだと思いますよ。目当ての食材がスペイン料理に向くとか向かないとか、そういう先入観なしに食材に接すると、いろいろなヒントが得られて新しい食の世界が広がるようです」と続けます。

「博多蕾菜」や「博多春菊」についても、「加熱はもちろん、合わせるものによっては生でもおいしくいただける。いろいろな使い方が楽しめる食材ですね」と本多シェフ。

本多シェフは、スペイン料理だけでなく、フランス料理や日本料理にも精通しているので、これまで和食にしか使われなかった食材に関しても多彩な発想が生まれます。
たとえば、福岡県朝倉市を流れる黄金川にしか自生しないとされる「スイゼンジノリ(川茸)」もそのひとつ。「和食以外で使うのは難しい」と言うシェフが多いなか、生産現場を訪ねた本多シェフは、生産者との会話の中でこんなアイデアを語っていました。

「スイゼンジノリ」が自生する黄金川を視察し、200年以上「スイゼンジノリ」を守り続ける「川茸元祖 遠藤金川堂」の17代目・遠藤淳さんの説明を聞く。「貴重な食材であることはもちろん、自生する川がきれいに保たれていることにも感動しました」。

「プルプルとした独特の舌触りと鮮やかな緑色を活かすには、『スイゼンジノリ』をオリーブの実やオマールエビと合わせて、オリーブオイルをかけて仕上げたサラダもいいかな。食感もおもしろいし、また、エビの赤と『スイゼンジノリ』の緑が引き立て合って、色彩的にも美しいひと皿になるのではないかと思います」
同様に「博多春菊」についても、こんな料理を提案してくれました。
「サラダ春菊などを使って、うちの店で実際に提供したことのあるお料理なのですが、苦みやアクの少ないサラダ春菊を、やわらかなミルク風味のホエー(牛乳から乳脂肪分やカゼインなどを除いたもの)と合わせたサラダです。
サラダ春菊は生のまま、ホエーに焦がしバターを加えたドレッシングをかけて提供します。『博多春菊』は茎までやわらかく、クセのないさわやかな風味なので、こうしたサラダ仕立てのお料理に合いますね」

旨味と酸味、辛味が融合した鰆の炭焼きと
濃厚なソースと一体化したスフレ

本多シェフが、今回のフェアで用意した料理は、「特鮮 本鰆」を用いた「マリネした福岡県産鰆の炭焼き、カキのクレーマとチョリソーで炒めたブロッコリー」と、「あまおう」の特徴を活かしたデザート「あまおうの入ったホワイトチョコと卵黄のスフレフルイード」です。
「大きくて身の締まった『特鮮 本鰆』は脂のノリもよかったので、アップルビネガーでマリネし、わらの香りをつけてから炭焼きにしました。付け合わせは、チョリソーでソテーしたブロッコリー。ソースとしては、カキやホウレンソウ、オリーブオイルの風味を活かしたものを添えました」

糸島漁港の漁師によって一本釣りにされた「特鮮 本鰆」は2.5㎏を超える。この「特鮮 本鰆」をアップルビネガーで40分ほどマリネしてから加熱調理する。

薫香をつけてふっくら焼き上げた「特鮮 本鰆」。まずはそのまま味わってみてから、次はソースとともに。
「チョリソーの辛味をつけたブロッコリーがアクセントになっていますし、またソースと合わせると、鰆の内側から出てくるビネガーの酸味に、カキに含まれるヨードやミネラルが合わさって、最後のひと口まで変化のある味を楽しんでいただけると思います」
実は本多シェフ、「何かトラブルがあってはいけないと、カキは避けてきた食材のひとつなんです」と言う。
しかし、「糸島カキ」の養殖場を視察し、実際に味わってみて、「やはりカキは素晴らしい食材ですから、使わないままではもったいないという気持ちにさせられました。『糸島カキ』との出会いは、これまでの考えを変える大きなきっかけとなりましたね」

「糸島カキ」を試食。「おいしいカキで、磯の香や海水の風味もいいなぁと改めて感じ、今回のフェアには、カキの風味を取り入れてみることにしました」と言う。
「糸島カキ」を試食。「おいしいカキで、磯の香や海水の風味もいいなぁと改めて感じ、今回のフェアには、カキの風味を取り入れてみることにしました」と言う。

また、大粒で甘味と酸味のバランスのよい「あまおう」はスフレに。
「スフレというとソースをかけたり、スフレアイスにしたりすることが多いのですが、今回はそうしたスタイルではなく、それだけで完結する濃厚な味わいのスフレを作ってみました。
表面を崩すようにスプーンを入れると、卵黄とホワイトチョコレートのソースが現れ、中からは、ゴロンと大きな『あまおう』が顔を出す。こうした演出も楽しんでいただけると思います」

「あまおうの入ったホワイトチョコと卵黄のスフレクルイード」。「あまおう」のフレッシュ感が損なわれない程度に、火入れは180℃で5分くらいに抑えて仕上げる。
「あまおうの入ったホワイトチョコと卵黄のスフレフルイード」。「あまおう」のフレッシュ感が損なわれない程度に、火入れは180℃で5分くらいに抑えて仕上げる。

銀座にある「スリオラ」のほか、鉄板焼を専門とする「プランチャ スリオラ」も手掛ける本多シェフ。今年は福岡を中心に九州を巡る旅を予定していて、「視察というのではなく、個人的な興味からいろいろな食材を見て回れたらと考えています。福岡県産の食材の中には、『プランチャ スリオラ』で使えるものもあると思うので、そうした視点から食材をチェックするのもいい。今年は福岡県に注目する年になりそうですよ」と言う。

福岡県のよさが詰まった本多シェフの料理は、おいしさを追求する人にとって、年明けから”食べ逃せない”ひと品といえそうです。

本多誠一さん

本多誠一さん

1976年、千葉県生まれ。高校卒業後、フランス料理店を経て渡仏。フランスでの修業中にスペイン料理に衝撃を受ける。その後、サンセバスチャンの「カーサ ウロラ」で修業。9年間の海外経験を活かし、帰国後は「サンパウ」のスーシェフを経て、2011年、麻布十番にスペイン料理レストラン「ZURRIOLA」を開いた。2015年に現在の銀座へ移転。2014年よりミシュラ2つ星を維持し続ける。2020年には虎の門に「プランチャ スリオラ」をオープン。

スリオラ

スリオラ
東京都中央区銀座6-8-7 交詢ビル4F
TEL03-3289-5331
11:30~13:00LO(土日祝は13:30)
18:00~21:00LO
月休

取材・文/上村久留美 撮影/吉田和行、濱田陽守、木村文吾