<沖縄黒糖商談会 & ピアットスズキ鈴木シェフ監修「沖縄黒糖ランチ」>
沖縄黒糖とイタリア料理のケミストリーで、食材の新たな可能性を拓く

去る2月22日(火)、沖縄県黒砂糖共同組合主催による「沖縄黒糖商談会」が東京・汐留のホテルインターコンチネンタル東京ベイにて開催されました。商談会の後には東京・麻布のイタリア料理店「ピアットスズキ」鈴木弥平シェフ監修による「沖縄黒糖特別ランチ」が振る舞われました。沖縄黒糖とイタリア料理というユニークなコラボレーションは鈴木シェフの創意豊かなクリエイティビティにより、甘味料という従来のイメージを超えた沖縄黒糖の新しい可能性が感じられたイベントになりました。

商談会は、「沖縄県黒砂糖工業会」「沖縄県黒砂糖協同組合」の会長・代表理事を務める西村 憲さんの挨拶から始まりました。
沖縄県の全域でサトウキビ栽培、砂糖製造が行われていますが、そのうち沖縄黒糖となるのはわずか5〜6%ほど。生産地は伊平屋島、伊江島、粟国島、多良間島、小浜島、西表島、与那国島、波照間島の8島のみに限られるのだそうです。各島で独自の栽培・製造法を有し、香りや味わいなど島ごとに個性が異なることも沖縄黒糖の魅力のひとつだそうです。
他方で「生産地には高校がないなど若い世代が流出しやすいことが課題で、沖縄黒糖は若者の雇用を創出し定住者を増やすためにも重要な産業です。また産地の島々は排他的経済水域等の保全など国土防衛の観点でも極めて重要な場所に位置しており、持続可能な産業にしていくことが大きな意味を持つ」ことを力説されました。

沖縄黒糖について

各島で生産されるサトウキビの汁をそのまま煮詰めて濃縮させたもの。後から粗糖や糖みつなどの副原料を加えた「加工黒糖」「加工糖」とは区別される。沖縄での黒糖栽培の歴史は古く、17世紀初頭にまで遡る。2006年には特許庁の地域団体商標として登録、食品産業センターの「本場の本物」にも認定されている。
地元では沖縄黒糖を固形化させただけの「かち割り黒糖」がお茶菓子や土産物として親しまれているが、業務用では粉末状のものの流通が主流。栄養成分に目を向けるとカルシウムは上白糖の240倍、さらにマグネシウム・鉄・リン・亜鉛・銅など各種ミネラルが豊富に含まれており、甘味料でありながら疲労回復や血圧調整といった健康機能が期待できることも大きな魅力である。

続いて鈴木弥平シェフによる沖縄黒糖特別ランチの解説がありました。
鈴木シェフは「沖縄黒糖を料理の素材として考えるのは初めて」と言い、「改めて自然な甘さとミネラルを強く感じました。甘くても後味がすっきりして後に残らない。いちど使い慣れると、なかなかいつもの砂糖に戻れなくなります。地元の方が黒糖の塊である〝かち割り黒糖〟を好むのも納得できます」と感想を述べました。

メニュー構成については「素材として、調味料として、2つの使い方で表現してみました」という。「調味料としては沖縄黒糖の味は主張させずに肉や魚といった食材のうま味を引き出す脇役として、素材としては沖縄黒糖の甘みや風味をしっかりと感じていただけるもの」として全5品のコース料理を用意。さらに鈴木シェフ自ら焼き上げた沖縄黒糖で作ったパネットーネも振る舞われました。本場イタリアでも高い評価を得ている鈴木シェフお手製のパネットーネを体験できたのも嬉しいサプライズでした。

鈴木 弥平さん
1967年茨城県生まれ。「ピアットスズキ」オーナーシェフ、「トラットリア・ケ・パッキア」オーナー。19歳でイタリア料理の道へ。平田勝シェフに師事し、平田氏独立とともに「クッチーナ・ヒラタ」へ。1992年に渡伊し、イタリアの料理学校で1年間学んだ後にシチリア、トスカーナ、 リグーリア、ピエモンテなど各地のリストランテで研鑽を積む。帰国後の1993年に「ヴィーノヒラタ」のシェフに就任。2002年に独立し「ピアットスズキ」を開業。伝統的なイタリア料理を基本としながらも、旬の素材の持ち味を生かした料理を提唱する。2007年から2021年まで14年連続で「ミシュランガイド東京」で一つ星を獲得。2019年は本場イタリア各地で行われるパネトーネ・コンテスト5大会に出場。日本人で初めて全大会ファイナリストとなり、ミラノで開催された洋菓子の世界大会でも金賞を受賞している。

前半の二皿は沖縄黒糖を食材のうま味を引き出す脇役(調味料)として使った料理。

マグロの黒糖締めカルパッチョ
鮮魚の身に塩を振って余分な水分を取り除く「塩締め」という下処理法がありますが、イタリア料理では塩だけでなく砂糖と合わせて行うこともあるそう。そこから沖縄黒糖で締める下処理法を着想したのだとか。
「沖縄黒糖で締めることでマグロの身色がキレイに仕上がることがわかりました。また特有の血の臭いがマスキングされたり、うま味を増幅させてくれます。ブリやサバといった他の青魚でも試してみたい」と高く評価していました。

豚スネ肉の黒糖風味 サラダ仕立て
西表島産の沖縄黒糖をたっぷり加えたソミュール液に3日間漬け込んだ豚スネ肉を柔らかくなるまで煮込んでいます。
「肉質が硬く、うま味にも乏しい豚スネ肉の味を増幅させるのに沖縄黒糖のミネラル感や香ばしさが利いています」と語り、これまで用途を狭めると思われていた沖縄黒糖のクセについても、先入観にとらわれない使用法を示唆しました。

後半の二皿は沖縄黒糖の存在感を主張させながら、主菜としてまとめあげた料理でした。

Gnocchi di 黒糖
沖縄黒糖を材料全体の約10%を使用して甘さを強調したニョッキを、塩気の強いゴルゴンゾーラとブルーチーズのソースに合わせた個性の強い一皿。強烈な塩気のソースを感じたあとに舌でつぶせるほど柔らかく茹でられたニョッキの中から輪郭のくっきりした沖縄黒糖の甘さに驚かされました。
「沖縄黒糖の甘さはさらっとして舌に残らない。ゴルゴンゾーラの塩気が引き立たせてくれるというイメージで作りました。狙い通りニョッキの甘さとソースの塩気の絶妙な対比やバランスが表現できました」と鈴木シェフ。

和牛の黒糖ブラサート
「赤ワインの煮込みは酸味が立ちやすいという難点を、沖縄黒糖の甘さでバランスをとることで酸味をおだやかに感じられるようにしました」と鈴木シェフ。
沖縄黒糖をたっぷり使い、香ばしい甘さがしっかり感じられる濃厚な赤ワインソース。ソースだけを味見すると肉料理らしからぬ甘さに戸惑いましたが、牛肉とともに口に入れるとしっかりと肉の味わいを下支えする名脇役ぶりを発揮しています。

デザートは沖縄黒糖の特徴をもっとも引き出しやすいアイテム。鈴木シェフも重層的に沖縄黒糖を使ってその魅力を表現しました。

黒糖ティラミス
マスカルポーネクリームにしっかりと沖縄黒糖を溶かし込んで、香ばしい甘さが存分に引き出されていました。「クルミやコーヒーといった香ばしさが持ち味の食材は沖縄黒糖のミネラル感や香ばしさとの相乗効果が高く、かなり個性的なティラミスになったと思います」と鈴木シェフ。

パネットーネ
鈴木シェフは本場イタリアのパネットーネ・コンテストでも優秀な成績を収めているほどの実力者。本来コースには組まれていませんでしたが、サプライズとして振る舞われました。
「沖縄黒糖はグラニュー糖と比べて水分量が多くレシピの調整が必要。沖縄黒糖由来のナチュラルなコクや奥行きが生まれ個性的なパネトーネに仕上がった」と鈴木シェフ。

デザートともにサービスされるコーヒー(紅茶)では、かち割りの沖縄黒糖を入れて、少しずつ溶けて甘みが増していく変化を楽しむことを鈴木シェフは提案。「イタリア人はエスプレッソにたっぷりの角砂糖を入れて飲み、飲み終えた後に残った砂糖をスプーンですくって食べますよね。それに似た楽しみ方ができるのも沖縄黒糖の醍醐味です」。

イタリア料理と沖縄黒糖という異色ともいえるコラボレーションは、鈴木シェフのクリエイティビティによって様々な食材、調理法にもマッチして新しい価値を切り拓く可能性を示しました。これまでの用途から「和」のイメージが強かった沖縄黒糖でしたが、多くの参加者が沖縄黒糖の多様でイノベーティブな存在感を認識できたイベントとなったと感じました。