「元気つくしを使った毛ガニのアロス」。「元気つくし」は福岡県産のお米で、粒がしっかりとしていて、炊き立てはもちろん冷めてもおいしいと評価されている。

スペイン料理に求められるのは素材の確かさ
質の高い福岡産の食材ならこのニーズに応えられる

独自の感性で美しいモダンスパニッシュを生み出し続ける本多誠一シェフ。日本各地の多彩な素材の中から、確かな食材のみを厳選して自らの料理に取り入れています。その厳しい目で選んだ福岡県産の食材は、「天然クエ」と「元気つくし」(米)、「秋王」(柿)。星付きレストランならではのオリジナリティー溢れる料理で魅せてくれました。

「元気つくしを使った毛ガニのアロス」。「元気つくし」は福岡県産のお米で、粒がしっかりとしていて、炊き立てはもちろん冷めてもおいしいと評価されている。
「元気つくしを使った車エビのアロス」。「元気つくし」は福岡県産のお米で、粒がしっかりとしていて、炊き立てはもちろん冷めてもおいしいと評価されている。

食材の特長をダイレクトに表現しつつ
レストランでしか味わえないひと品に仕上げる

フランスやスイスでの修業中にスペインを訪れ、その料理の味はもちろん、食材の質の高さに感銘を受けたという銀座「スリオラ」の本多誠一シェフ。日本料理との共通点も感じたと語る本多シェフは、そのままスペイン料理を極める道を選びました。帰国後は、スペインの伝統を重んじつつ、モダンで独創的な料理を作り続けています。
こうしたなか、本多シェフは、日本各地の食材の中でも自らの感性に響くものにこだわり続けています。そんなシェフの目には福岡県の食材もまた魅力的に映り、現在「スリオラ」では、福岡県産の食材を用いたフェアを行っています。

本多誠一さん

本多誠一さん

1976年、千葉県生まれ。高校卒業後、フランス料理店を経て渡仏。フランスでの修業中にスイスやスペインの料理にも触れ、特にスペイン料理に衝撃を受ける。その後、サンセバスチャンの「カーサ ウロラ」で修業。9年間の海外経験を活かし、帰国後は「サンパウ」のスーシェフを経て、2011年、麻布十番にスペイン料理レストラン「ZURRIOLA」を開いた。2015年に現在の銀座へ移転。2014年よりミシュラ2ツ星を維持し続ける。

本多シェフがまず選んだのが、福岡県自慢の「元気つくし」。「そのおいしさで食べる人に元気を与えたい」との思いからこう名づけられたというお米です。
「スペインではお料理によくお米を使います。日本でも『パエリア』などはもうすっかりお馴染みの料理として定着していますよね。今回の車エビの『アロス』もお米のお料理で、日本でいうとおじやの原型みたい料理です」と本多シェフ。
エビの頭、豚のあばら、鶏の手羽元などからとった出汁をベースに、タマネギやピーマンなどの炒め野菜と米を加えて強火で炊き上げたもの。さまざまな食材から出た濃厚な旨味をお米がほどよく吸収して、美味なる調和が生まれます。
「ポイントは、お米が旨味を〝ほどよく〟吸収すること。日本のお米を使う上で難しいのは、火が入るとどんどん水分を吸収して、かゆ状になってしまうことなんです。厨房では、テーブルへと運ぶ時間やお客様が召し上がる速度なども考えて火加減を計算して仕上げるのですが、その間に出汁を吸収しすぎるタイブのお米もあります。その点、『元気づくし』は吸収の度合いがほどよいので、『アロス』に適したお米といえます」

「日本のお米の多くは加熱するとスープを吸って何倍にも膨らんでしまうため、胚芽米を使っていたのですが、『元気づくし』は違いますね」と本多シェフ。
「日本のお米の多くは加熱するとスープを吸って何倍にも膨らんでしまうため、胚芽米を使っていたのですが、『元気づくし』は違いますね」と本多シェフ。

魚の王様「天然クエ」、柿の王様「秋王」のおいしさを
十二分に引き出した「福岡の食フェア」のメニュー

「スペインでは〝山は仔羊、海はハタ〟といわれ、肉なら羊肉が、お魚ならハタが最高とされています。魚のおいしさは加熱によって引き出されるもので、その際に決め手となるのが脂肪とゼラチンというわけなんですね。
僕は魚でおいしいのはイワシ、王様はクエだと思っています。クエはハタとは少し違いますが、同じ〝ハタ科〟の魚で味はどちらもおいしい。福岡県では多彩な魚が獲れ、大ぶりの『天然クエ』は魚の王様と呼ぶにふさわしいので、今回のフェアで使用。蒸してスープと合わせました」
本多シェフの場合、生家が鮮魚店を営んでいたせいもあり、魚へのこだわりはどうしても強くなりがち。「上質な魚だからこそ、味つけはごくシンプルに」。そのシンプルさが魚の旨味だけでなく、スープのおいしさを引き立て、完成度の高い、深みあるひと皿に仕上げています。

「福岡県産クエ 天然キノコとウイキョウのスープ」は、今回のフェアのために本多シェフが新たに考案した料理。「脂ののった『天然クエ』のおいしさをストレートに表現したかったので、クエは蒸して最後にライムの香りをつけただけのシンブルな味付けにしました」と言う。クエのアラのスープに、タマネギ、ウイキョウ、トマト、キノコなどの旨味や甘味を移した絶品スープとともに。
「福岡県産クエ 天然キノコとウイキョウのスープ」は、今回のフェアのために本多シェフが新たに考案した料理。「脂ののった『天然クエ』のおいしさをストレートに表現したかったので、クエは蒸して最後にライムの香りをつけただけ」と言う。クエのアラのスープに、タマネギ、ウイキョウ、トマト、キノコなどの旨味や甘味を移した絶品スープとともに。
天然高級魚のクエは、クセのない白身のため、さまざまな料理に活用されている。九州のほか、高知県や和歌山県などが名産地とされ、大きいものは5kgを超える。本多シェフが調理した「天然クエ」は7.8㎏。
天然高級魚のクエは、クセのない白身のため、さまざまな料理に活用されている。九州のほか、高知県や和歌山県などが名産地とされ、大きいものは5kgを超える。本多シェフが調理した「天然クエ」は7.8㎏。

「スリオラ」での「福岡の食フェア」は、最後のデザートまで意表をつくおいしさ。本多シェフだから実現したデザートで、選んだのは福岡県オリジナル品種の「秋王」——糖度の高さとサクサクした食感が特長の柿です。
サトウキビのシロップにバニラ、スターアニス、サフランなどを加えて香りづけをし、これにラム酒を入れたマリネ液で1時間ほど真空調理したのが、今回のデザート「福岡県産柿 サフランの香りをつけた秋王のマリネ」です。

「福岡県産柿 サフランの香りをつけた秋王のマリネ」。「秋王」は果皮や果肉のオレンジ色が濃い品種だが、真空調理によってさらに色濃くなり、透き通るような透明感も加わった。仕上げにオリーブオイルの中で加熱したサフランをのせて、さらに香りをプラス。この状態でも秋王の小気味よい食感を堪能できることに驚くゲストは多い。
「福岡県産柿 サフランの香りをつけた秋王のマリネ」。「秋王」は果皮や果肉のオレンジ色が濃い品種だが、真空調理によってさらに色濃くなり、透き通るような透明感も加わった。仕上げにオリーブオイルの中で加熱したサフランをのせて、さらに香りをプラス。この状態でも秋王の小気味よい食感を堪能できることに驚くゲストは多い。
福岡県農林業総合試験場で10年もの歳月をかけて開発された「秋王」。甘柿で種がないのは世界初とされる。「種がないと形の整ったままムダなく調理できるのでレストラン向きですね」(本多シェフ)。
福岡県農林業総合試験場で10年もの歳月をかけて開発された「秋王」。甘柿で種がないのは世界初とされる。「種がないと形の整ったままムダなく調理できるのでレストラン向きですね」(本多シェフ)。

「フルーツならではの甘味が引き立つように、シロップの甘味はほどほどにしています。ふつう柿は熟すと甘くなりますが、そのかわり果肉はやわらかく崩れやすくなってしまいます。『秋王』の場合はそれがなく、甘味があるのに食感はサクサク。その歯切れのよさは、真空調理しても損なわれないので、新感覚のデザートを完成させることができました。大きくて種がないのも調理しやすい点ですね」

福岡県の食材に興味を覚えた本多シェフは、来月12月には、福岡県の産地を視察する予定。さらに美味なるコラボレーションが期待できそうです。

店内のカウンターには「秋王」を盛り込んだ飾りつけがさり気なく置かれている。
スリオラ

ZURRIOLA
東京都中央区銀座6-8-7 交詢ビル4F
TEL03-3289-5331
11:30~13:30LO
18:00~20:00LO
月休

取材・文/上村久留美 撮影/木村文吾