アジア最大級の食品・飲料展示会「FOODEX JAPAN 2023」が2023年3月7日(火)〜10日(水)の4日間、東京ビッグサイトにて開催されました。
今年は世界60か国・地域から2500社が出展し、イタリア館も昨年より1.5倍に面積を拡大。約170のイタリア企業が各社自慢の製品を紹介しました。4日間で述べ7万人を超える業界関係者が足を運ぶ大盛況な開催となりました。
本記事では5回に渡り、イタリア館の開催内容をご報告!第一回目は「キッチンデモンストレーション」についてレポートします。
豪華シェフ陣がイタリア各州の郷土料理を紹介!
3年ぶりに復活した待望の「キッチンデモンストレーション」
ここ数年、コロナ禍により見送られてきたイタリア館のキッチンデモンストレーション。3年ぶりの開催となる今年は、テーマも原点回帰し「イタリア各州の郷土料理」にフォーカス。
イタリア大使館貿易促進部の新ポスターの全メニューを再現するべく、シェフそれぞれがゆかりのある地域の個性豊かなイタリア料理や食材を紹介しました。
イタリア館の中心に設置されたオープンキッチンにて4日間で計10回のデモンストレーションが実施されました。
ブース内には十分な間隔を開けながら40席が用意され、観覧席は各回開始30分前から先着順にて開放。イタリア料理界を牽引する豪華シェフが登壇することに加え、試食は着席者のみに振る舞われることから注目を集め、観客席は開放直後から次々と席を埋めました。
デモンストレーション中も多くの通行人が足を止めて見物するなど、キッチンブース周辺には溢れんばかりの人だかりができ、大盛況を収めました。
今回は北イタリア・トレンティーノ-アルト・アディジェ州の郷土料理を紹介した『リストランテ アルベラータ』 高師 宏明シェフと、南イタリア・プーリア州の郷土料理を披露した『リストランテ・コルテジーア』江部 敏史シェフのデモンストレーションの様子をレポートします。
FOODEX初日 第1回目デモンストレーション
『リストランテ アルベラータ』高師 宏明オーナーシェフ
古くなったパンを有効活用!トレンティーノ-アルト・アディジェ州の家庭料理「カネーデルリ」
FOODEX初日、最初のデモンストレーションに登壇したのは、神楽坂『リストランテ アルベラータ』の高師宏明オーナーシェフ。披露したのは、トレンティーノ・アルト・アディジェ州の伝統料理「カネーデルリ」と、ヴェネト州で誕生したドルチェ「ティラミス」の2品。
「カネーデルリは、古くなったパンをおいしく食べる家庭料理で、イタリアではどの州でもそのような料理が必ずあります。簡単でアレンジも楽しい料理ですので、ぜひ覚えて帰ってください」と高師シェフ。
南チロル地方とも呼ばれるトレンティーノ・アルト・アディジェ州は、イタリア最北の州でそのほとんどが山岳地帯。山の料理が広く楽しまれ、パスタよりもスープ類が好まれる地域です。今回の「カネーデルリ」は地域を代表する郷土料理。今回はレストラン仕様にクラスアップしたレシピを紹介しました。
高師 宏明(たかし ひろあき)さん
1963年、東京生まれ。六本木『キャンティ』などで経験を積んだ後、イタリアへ渡る。ヴェネト州『ダ・ジジェット』、ロンバルディア州『サドラー』、ピエモンテ州『フリッポ』、トレンティーノ・アルト・アディジェ州『シューネック』などで修業し帰国。日本橋『アルポンテ』を経て、2000年に『リストランテ アルベラータ』を開業。2009年、現在の神楽坂へ移店。厨房に立つ傍ら、東京オリンピック・パラリンピック関連事業「オリパラ教育」をはじめ、小学校のイタリアン給食の監修も務め、イタリアの食文化を子どもたちに教える食育活動も行う。
用意するのは固くなってしまったパン。バゲットのように気泡の大きなパンよりも目地の詰まったパンが「カネーデルリ」には向いています。表面の固い部分は削っておくと、口当たりなめらかな仕上がりになります。
1cmに角切りしたパンにバターで炒めた玉ねぎ、小麦粉、卵を順に混ぜ、人肌に温めた牛乳とバターを合わせます。そこにチーズ、塩、ナツメグ、コショウを加えて混ぜ合わせたら、最低でも1時間冷蔵庫の中で休ませます。あればパセリや万能ネギなどを合わせても良いでしょう。
合わせたてはボソボソとしていますが、時間を置くとしんなりとまとまりやすくなるので丸めて団子状にします。1%の塩を加えたお湯が沸騰したら、そこに入れます。火が強すぎると鍋の中でバラバラになってしまうので、注意しながら5〜6分茹でます。茹で上がったらバターを焦がしておいた鍋に入れ、水分を飛ばしながらバターを絡めて完成です。
カネーデルリはブイヨンスープに入れて食べるのが最もポピュラーで、サラダに添えたり、クリームチーズソースと合わせたりして楽しまれています。デモンストレーションではレストランでのひと皿をイメージし、アルト・アディジェの煮込み料理「グーラッシュ」を添えて贅沢なメニューへと仕上げました。
なめらかでもっちりとした食感のカネーデルリ。ひと噛みすると内側からチーズの旨味が溢れ出します。「実はイタリアではカネーデルリはかなり固い状態で提供されることが多いのですが、崩れる寸前くらいのやわらかい茹で加減が間違いなく一番おいしいのでギリギリを狙いました」と高師シェフ。
「今日のカネーデルリには『ヴェッツェーナ』と『パルミジャーノ・レッジャーノ』の2種類のチーズを合わせました。ヴェッツェーナはアルト・アディジェで最も古いと言われているハードタイプのチーズで風味も塩味も強くとてもおいしいですが手に入りにくいので、『アジアーゴDOP』や『ブラ・ドゥーロ』などほかのチーズでも代用可能です。現地では『ゴルゴンゾーラ』でよくつくりましたね。
カネーデルリはチーズを練り込まずにプレーンで楽しんだり、ほうれん草やビーツを入れたり、レバーやスペックという生ハムを合わせたりとアレンジが楽しい料理ですが、アルト・アディジェではトマトが採れないのでトマトソースだけは合わせません。ぜひアルト・アディジェらしく召し上がっていただきたいですね。」
ふんわりなめらかでコク深いヴェネト州 発祥のドルチェ「ティラミス」
ザバイオーネづくりから披露した「ティラミス」は、マスカルポーネに生クリームと卵白を合わせることで、コクがありながらも軽いレストラン仕様に仕上げました。
「ティラミスに限らずドルチェをおいしく作るコツは材料を合わせるタイミングや混ぜ合わせ方です。できあがりが大きく違ってきます」と、高師シェフは工程ひとつひとつを丁寧に解説しました。
小野孝予さん
チーズ料理研究家、チーズプロフェッショナル(C.P.A.関東幹事)、ソムリエ。料理、チーズ&ワインの教室を主宰。セミナー講師、コラム執筆、企業へのレシピ考案、商品開発、イベント&メディアに多数出演。昨今はちょっと新しいチーズの楽しみ方「チーズアシェット®」提案活動に勤しむ。著書「チーズ☆マジック」 。
今回、各デモンストレーションでは必ず一種類以上のイタリアチーズが使用され、各回の終盤にはチーズ料理研究家の小野孝予さんが登場し、使用したチーズの解説を行いました。
「ティラミスは1970年代にヴェネト州 で誕生した比較的新しいドルチェですが、使用された『マスカルポーネチーズ』は12世紀にロンバルディア州で生まれました。牛のミルクを使ったフレッシュチーズで、酸味が少なく乳脂肪分のコクが強いので、チーズというより生クリームに近い感覚で味わえます。
現在はイタリア全土で通年作られていますが、かつて冷蔵設備のなかった時代は冬限定の北イタリアの味として楽しまれていました。主な使い方は、生クリームと同じように今回のようなドルチェにしたり、ソースにしてお肉と合わせたり。
私の好きな食べ方は、マスカルポーネと西京味噌を1対1で合わせてペースト状にしたものをイチジクにのせて食べます。とても簡単でおいしいので、ぜひ試してみてください。コーヒーのミルクがないときに代わりにひとさじ入れてもクリーミーでおいしいですよ。」
FOODEX 2日目 第5回目デモンストレーション
『リストランテ・コルテジーア』 江部 敏史シェフ
“食べる”ということを体感するプーリア州のパスタ「オレッキエッテ・コン・チーメ・ディ・ラーパ」
デモンストレーションが三回行われたFOODEX二日目の最後に登壇したのは、表参道『リストランテ・コルテジーア』 の江部 敏史シェフ。プーリア料理を基軸に提供する江部シェフは、プーリア州を代表するオレッキエッテを使ったひと皿と、プーリアのお隣、カラーブリア州の名産である唐辛子を使った2種のパスタを披露しました。
南イタリア、ブーツのかかと部分にあたるプーリア州はそのほとんどが平野。恵まれた環境が小麦や野菜、果物、魚介類といった豊かな食材を育むことに加え、オリーブオイルやワインの名産地としても名高く、食材の宝庫として知られています。
イタリア語での挨拶とともに登場した江部 敏史シェフ。「イタリア各地を食べ歩きましたが、素朴な料理が多いイタリア郷土料理の中においても、質・量ともに豊かな食材に恵まれたプーリアは極めてシンプルな料理が多かった印象があります。今日これからつくる料理も茹でてオリーブオイルとあわせるだけの簡単なレシピ。鍋一つでできますので、ぜひご自宅でも作ってみてください」と、デモンストレーションがスタートしました。
江部 敏史(えべ さとし)さん
1967年、東京都生まれ。武蔵野調理師専門学校卒業後『ホテルニューオータニ』に入社。
西麻布『リストランテ・アルポルト』などで修業し渡伊。フィレンツェ、ボローニャ、ターラントなどイタリア各地で研鑽を積み帰国後、日本橋『リストランテ・アルポンテ』、浦安『ペスケリーア』シェフ、小石川『アル・ペッシェドーロ』シェフを経て、2006年より表参道『リストランテ・コルテジーア』シェフに就任。
主役はプーリア州の代名詞的存在のパスタ「オレッキエッテ」。細い棒状にのばした生地を小さく切り分け、指などで押しながら広げた耳たぶ型のショートパスタです。プーリア州の州都バーリの旧市街では家の軒先でオレッキエッテを作る風景が日常的に見られ、江部シェフも現地のおばあちゃんに教わった思い出のパスタなのだそう。
「今日使うオレッキエッテもプーリアから仕入れています。プーリア州ではターラントという港町で修行しましたが、もちろんここでもオレッキエッテはよく使っていました。茹で時間が長いのでさっそく茹で始めます。パスタを入れたら、一緒にチーメ・ディ・ラーパも茹でていきます。」
「チーメ・ディ・ラーパ」は日本では「西洋菜の花」として知られる、冬から春先にかけて旬を迎えるイタリア野菜。プーリア州が一大産地であり、「オレッキエッテ・コン・チーメ・ディ・ラーパ」はチーメ・ディ・ラーパを使った最も代表的な料理です。
「ここにアンチョビを合わせるのも現地の定番ですが、今日はオレッキエッテとチーメ・ディ・ラーパの味を楽しんでいただきたいので、極めてシンプルにオリーブオイルと塩コショウだけで仕上げます。量が多いのでボウルで混ぜていますが、ご自宅ではザルにあけたら鍋に戻して混ぜ合わせてください。チーメ・ディ・ラーパがソースのようにオレッキエッテに絡んだら完成です。」
試食が配られると、客席一体がチーメ・ディ・ラーパの青い香りに包まれました。「いかがですか?」と問いかける江部シェフ。
「極めてシンプルですが、とてもおいしいでしょう。僕もプーリア料理が大好きで、毎日おいしいなと思って作っています」とにっこり。イタリアでは素材そのものがおいしければあまり余計なことはしない方がいいという考え方が広く根付いているが、江部シェフ自身も経験と年齢を重ねるほどにそれを実感しているそう。
「シンプルな味付けで食材の良さを引き出して、その食材の味をしっかりと楽しむことこそが、彼らイタリア人の考える“食材へのリスペクト”なんですよね。身近な場所で手に入る食材を使って、そのおいしさを味わう。イタリア料理はとても合理的であり、ある意味でとても贅沢な料理なんです。
『味だけでなく、見た目、香り、食感のすべてを楽しむの。何を食べているのかにきちんと向き合って、食材のおいしさをちゃんと味わいなさい。それが“食べる”ということよ』と現地でおばあちゃんによく言われました。その言葉は今もずっと常に僕の中心にあります。」
弾けるような歯応えのオレッキエッテは、噛むほどにチーメ・ディ・ラーパの甘味が溢れ、ほんのりとしたほろ苦さが余韻に残ります。その確かな味わいに深く何度も頷き返す観客たちの様子から、プーリアのおいしさがきちんと伝わったようです。
カラーブリア州名産の唐辛子を味わうパスタ「ベルミチェッリ サン マルティーノ風」
もう一つ披露したのは、カラーブリア州サン・マルティーノ・ディ・フィニータという街のパスタ。「アンナ・ゴゼッティさんが書いた『Le ricette Regionali Italiane』というイタリア郷土料理のバイブルにあるレシピがベースです。カラーブリア州名産の唐辛子を味わうパスタで、いわゆるアーリオ オーリオ エ ペペロンチーノにペコリーノチーズを加えています。添えたオイル漬けの唐辛子はイタリアの友人のアイディア。ポリポリとかじって楽しんでください。」
最後にパスタを成功させるコツを聞かれた江部シェフ。「オレッキエッテ・コン・チーメ・ディ・ラーパもそうですが、こういったシンプルなイタリア料理はちょっとしたことで表情が大きく変わります。レシピだけじゃできない。自分の舌と心で感じるニュアンスの部分を大切にしてください」という言葉でデモンストレーションの幕を閉じました。
豊かな個性を描き出す!めくるめくイタリア各州の郷土料理
「キッチンデモンストレーション」に登壇した豪華イタリアンシェフと、実演したイタリア料理の一部をご紹介します。