VI Settimana della Cucina Italiana nel Mondo
レストランは命につながる責任ある仕事
自然とたどり着くサステナビリティという通過点

Pasta di castagna biologica con crema di formaggio Fattoria Bio Hokkaido.
カラブリア産オーガニック栗のペンネ ファットリアビオ北海道直送チーズのソース仕立て

2016年よりイタリア外務省が推進する食をテーマにしたキャンペーン「世界イタリア料理週間」。毎年11月第4週に実施し、第6回を迎えた2021年は「イタリア料理の伝統と展望:持続可能な<食>を目指して」をサブテーマに世界各国でさまざまなイベントプロモーションが展開されました。

本開催にあたり、日本在住歴30年という「エリオ ロカンダ イタリアーナ」オーナーのエリオ・オルサーラさんにサステナビリティに対する考えや、改めて伝えたい伝統的なイタリア料理の魅力について伺いました。

より安全で新鮮な食材を求めて
キロメートル・ゼロに取り組む

サステナビリティという言葉が注目されるずっと以前から「エリオ ロカンダ イタリアーナ」ではオーガニック食材だけを使い、冷凍した食材も一切使っていません。その理由を伺うと、エリオさんは「レストランビジネスのベースは“愛”だからね」と微笑みます。

エリオさんがシェフを目指したルーツは、南イタリアでロカンダを営んでいたおばあさん。ロカンダとはイタリア語で旅籠のことで、今でいう“アグリツーリズモ”のような畑や牛の世話といった農業や自然体験を楽しんでもらう滞在型のレストランを手がけていました。お店で出す野菜もチーズも肉も、すべてお店の周辺で作っていたそうです。

「私のおばあさんがいつも言っていたことが“レストランで食べることの意味”です。おいしいは当たり前。私たちが考えなくてはいけないのは、翌日以降のお客さんの健康について。だって、私たちの体は食べものでできているんだから。自分がつくった料理がお客さんの体の中に入るということはとても責任のあること。レストランは命につながる仕事なのだ、ということを繰り返し聞かされていました」

オーナーのエリオ・オルサーラさん(左)と料理長のジュゼッペ・ルッソさん(右)。

プロフィール
エリオ・オルサーラ Elio Orsara/1966年、イタリア南部・カラブリア州生まれ。イギリス、イタリアで修業後、スペインで自身の店をオープン。その後、渡米を経て91年に来日。神戸オリエンタルホテルでイタリアンレストランを立ち上げ、ダイエー系列店で腕を振るう日々を送る。96年にオーナーシェフとして「エリオ ロカンダ イタリアーナ」を麹町にオープン。ケータリングサービスを始め、チーズ工場、サラミ工場も手がける。

お子さんがアレルギーだったことも、よりオーガニック食材に注力するようになったきっかけだと話します。しかし当時、日本でオーガニック食材を探し、手に入れることはとても難しかったそうです。

「当時からイタリアではオーガニック食材はメジャーで簡単に手に入りましたが、日本ではそうじゃなかった。特別栽培や減農薬、無添加といったカテゴリもあり、オーガニックの基準もイタリアに比べると曖昧に感じました。オーガニックというのは単に農薬を使わないということだけでなく、土地と水、空気がつくりだすものだと私は思うんです。それで私がたどり着いたのが“キロメートル・ゼロ(Km0)”という考えです」

キロメートル・ゼロとは、イタリアやスペイン、ポルトガルなどヨーロッパを中心に広まった取り組み。小規模生産の農産物をフレッシュな状態で活用することにより、地元経済の維持や発展のみならず、食料輸送に伴うCO2の排出量削減などに貢献していきます。また、料理を通じて生産者・消費者・料理人の3者がお互いの存在価値を感じ、その食材が生まれた背景や食文化、持続性についての理解を深めていくことにもつながります。

「イタリアから輸入するリコッタチーズは1ヶ月間保存ができる。でも、私はそれをリコッタチーズと呼びたくありません。味の問題ではなくクオリティの問題。アレルギーを持つ自分の子どもが食べられない保存料の入ったチーズを、アレルギー反応が出ないからと言って家族や友人に食べさせたくない。それで日本でチーズの会社を立ち上げたんです」

本場南イタリアのチーズ職人を日本に呼び寄せて立ち上げたチーズ会社「ファットリアビオ北海道」のほかに、イタリアの伝統とノウハウを導入したサラミづくりを手がける「アンティカサルメリア」も開業しました。もちろん商品はすべて完全オーガニック。

それ以外の食品も“安全”をキーワードに日本各地の農家さんや漁師さんを探し出し、手作業で収穫された上質な有機食材や丁寧に扱われる海鮮を選び抜いています。

「私の仕事はイタリア文化をお皿に載せること。イタリア料理はシンプルな料理です。安全で新鮮な食材がなければ、本物の味や香りを伝えることはできません。安全も新鮮もどちらも日本人の得意分野。利益を優先して外国に仕入先や工場を置くよりも、日本の地方にはまだまだ大きな可能性が潜んでいます。日本の食品関係者はもっと目を向けてほしいなと感じますね」

今回、イタリアが誇る伝統的なチーズのおいしさを味わうシンプルなパスタを披露してくれました。隠れた主役は、2021年に2年ぶりに帰ったイタリアで見つけたという栗粉のパスタ。リコッタ・サラータのミルキーな塩味に栗のほっこりとした甘味が重なり、余韻には栗の香ばしさがふんわりと残る、シンプルなのに印象深いひと皿です。

「2年ぶりのイタリアでは、小さな会社をたくさん視察してきましたが、そこで見つけたこのパスタもオーガニックでグルテンフリーです。私の子どもはグルテンアレルギーも持っているので、グルテンフリーの食品には常に興味を持っていますが、このパスタはとてもユニークで気に入りました。南イタリアの家庭料理にリコッタチーズとくるみを合わせた素朴なパスタがあるのですが、それをイメージして栗の風味にリコッタを合わせてみました」

栗の粉と少しのトウモロコシ粉でつくるブロンズダイス製法のパスタは茹で時間9分。

「カラブリア州のロリアーノにある乾燥栗や天然焼き栗などを手がけている会社のもので、栗の風味がしっかりと感じられる甘味の強いパスタです。食感やテクスチャーもパーフェクト!」

生クリームにたっぷりのパルミジャーノ・レッジャーノとリコッタ・サラータを加え、ひと煮立ちさせたらソースは完成。

仕上げで再度パルミジャーノ・レッジャーノをあえてリコッタ・サラータを振りかければ出来上がり。味付けは基本的にチーズの塩味のみというシンプルなソース。

リコッタ・サラータは、チーズを作る過程で生まれるホエーを再利用して作るリコッタチーズを、さらに熟成させてできる高タンパク低カロリーのナチュラルチーズ。

カラブリア州で古くから生産され、南イタリア料理に欠かせないチーズのひとつ。

「私は東京のレストランは世界一だと思っています。2,000円から20万円までの幅広い価格帯でディナーを味わえる場所なんてほかにない。そして、2,000円のディナーを選んでもパスタはしっかりアルデンテが楽しめる。価格、品質、サービスのどれも世界のどこにも負けない。

その分、競争も激しく、お客さんもシビアです。価格と品質、おもてなしのバランスがよくなければ誰も来てくれません。私の店はリピーターが98%です。30年やって来られたのは強いベースがあったからだと思っています。

ベースとなったのはやっぱり“愛”なんですよ。それがおばあさんのインスピレーションの源でしたから。

新鮮で安全な食材で健康になってほしい、イタリアで培われてきた昔からのテクニックを大切にしたい、イタリアが誇る伝統的な料理をこれからもずっと味わってほしいという思い。そういう思いがあれば、オーガニックやサステナビリティという考えには自然と至りますよね。そして、それらは目的地ではなく通過点だということも見失ってはいけないと思いますね」

店舗情報                 
Elio Locanda Italiana
東京都千代田区麹町2-5-2
TEL 03-3239-6771
11:45〜14:15 LO、17:45〜22:15 LO
日曜休
http://www.elio.co.jp/